Tホテル
投稿者:砂の唄 (11)
そして日程は決まり、時間はやはり夜のほうがいいのではないかということで、21時ごろの到着、捜索は2時間ほどと話は決まった。出発前にAは叔父さんにもう一度「あの建物」について聞いてみたそうだが、何も教えてはくれなかったらしい。
当日になり私とBとCはAの家へと集合した。
「なぁなぁそのホテルってどういうところなんだ?行く前にもっと詳しく教えてくれよ。」Bは興奮気味に私に話しかけている。CはスマホをいじりながらAが出てくるのを黙って待っている。
心霊スポットに本当に興味があって参加したのか怪しいところだが、Cは普段から物静かであるからこれが通常の姿でもある。
「Cよーさっきから静かだな。楽しみじゃないのかよ」BはCに話しかけるが、Cは「正直あんまり興味はない」と言って、スマホを眺め続けていた。
しばらくするとAが出てきて、我々は言われるがまま車へと乗りこんだ。
「そこってどんな霊が出るんだ?やっぱ自殺者の霊とか?」Bは相変わらずはしゃいで、運転するAにしつこく話しかけていた。
「だから、今日の本命はTホテルの近くの心霊スポットなんだって。そこのことは何にもわからないんだから、俺に聞くな」
結局「あの建物」について何の情報もないまま我々はTホテルへと到着した。
Tホテルは周りを森に囲まれていて、意外とY村の中心から離れていない距離にあった。だが、看板なんてもうないし、道もわかりづらく意識しないと見つけることは難しいだろう。車から眺めているとほんとにあったんだなと多少の感慨はあったが、これからのことを考えると気が重かった。正直私も乗り気ではなく、心霊系はあまり得意ではなかったからである。
時間はすでに10時近くになっていた。思っていたより時間がかかってしまっていたようだ。
Tホテルは6階建てのビジネスホテルよりも少し大きいくらいの建物だった。廃墟になって何年たっているのか不明だが、思ったよりおどろおどろしい雰囲気はなかった。もっとも昼間に見ればもっとボロボロで不気味なのかもしれないが。
ホテル前の駐車場であっただろうスペースに車を止め、そこで車を降りた。
AとBははしゃいでいたが、Cは来る前とあまり変わらない様子でホテルのほうを見ていた。辺りを見回すが、暗いせいもあり長く伸びた草と無数の木々しか見えなかった。
「よーしそれじゃこれから、例の建物を探すぞ。俺とBはホテルの右側を、お前とCはホテルの左側を。30分探して何もなかったら4人でホテルの裏手を探すぞ」Aはスマホが通じることを確かめてから号令をかけ、テンションの高いBとともに走っていった。
「仕方ないから行くか。」Cに声をかけ、私たちも出発した。
「なんでこんな心霊スポット散策なんかに参加したんだ?」私はCに聞いてみた。
「正直、心霊スポットに興味はないけど、こういうのもいいかなと思ってね」cは懐中電灯を振りながら答えた。
「大学の思い出作りならもっといいのがあるだろうにな」そんなことをCと話をしながら辺りを散策する。相変わらず木と草しか見えず、それらしい建物は何も見えなかった。
20分程たったころであっただろうか、スマホに着信があった。Bが道のようなものを発見したから、ホテル前に戻ってくるようにということだった。
ホテル前に到着すると、テンションの上がりきったAとBが待っていた。2人に連れられて行ってみると、確かに駐車場の端のところから、舗装なんてされていないが道らしきものがうっすらと奥へと続いているようだった。こんな背の高い草がぼうぼうの中よく見つけたものだ。
「どうだ?これ道だよな。この先に例の建物があるんじゃないか?」Bは今にも走り出しそうな様子で話していた。
「さっきから何をそんなに興奮しているんだ?」私はBに聞いてみた。
「だってよ、これで幽霊見つけたら合コンのいいネタになるだろ」Bの言うことがどこまで本気なのかは不明だが、少なくてもBの熱量は本物であった。
4人で草をかき分け道らしきものを進んでいく。途中から坂になっていて、少し上るとまた平坦な道になった。そこからまた少し歩くと山側の方向に建物があるのを発見した。Tホテルからそれほど離れてはいなかったが、その建物は1軒だけポツンとあって、周りには何もない。大きさはコテージ?山荘?その位で2階建てであることは見てわかった。別館にしては立地が不可解であり、何より見た目がホテルっぽくない。かといって、なにかの管理小屋にしては大きすぎる気もした。
入り口前まで来ると一旦足を止め、どうしようかみんなで話し合いを始めた。
「なぁこれがその建物だよな…」Bも実際の建物を目の前にして尻込みしてしまったようであった。「そもそもこの中に霊感あるやつとかいないの?これ入っても大丈夫なのか?」Aもここにきて心配になってきたようだった。私とCは小さく首を横に振り、そのままみんな黙ってしまった。
少ししてBが「やっぱり入ってみよう」と言いながら入り口のほうに1人で歩いて行った。私達3人も後を追い、4人でドアの前に立った。そして意を決したようにBはドアノブに手をかけ、ドアを開いた。
ギギィと音を立てて、すんなりとドアが開いた。カギはかかっていなかったようである。中はホコリっぽくて、ドアを開けたと同時にホコリが舞い上がった。懐中電灯で玄関の辺りを照らすと、建物内は意外ときれいであることが分かった。そのまま中に上がってみると9時の方角に部屋が11時の方向に階段が、12時の方向に奥へと続く廊下があった。カウンターらしきものはなく、やはり別館ではなさそうだった。時間を確認すると既に到着から1時間近くがたっていた。
「あまり遅くなると帰りが心配になる。二手に分かれてさっさと散策して帰ろう」Aはそう言って、BもCも静かにうなずいた。
「俺とBが2階、お前とCは1階を見てくれ」Aはこちらの返事を待たずに、Bを連れて2階へと急いでいった。別れるのも怖かったので私はCと二人で、9時の方角の部屋に入って行った。
面白かったです
Tホテル、何処だろう。気になる。
ってことは「私」が見た子供って…