神社で礼をしてはいけない

私の友人の話です。
当時彼女が住んでいた町内には廃神社があり、近所の人は一様に気味悪がって避けていたのですが、信心深い友人は前を通る際に必ず礼をして拝んでいたそうです。

「お父さんにお母さんにおばあちゃん、みんなとずうっと仲良く暮らせますように」

ところが……友人がお参りを始めた一週間後に、まだ七十代だった祖母が脳梗塞で他界しました。
以降友人の家には次々と不幸が降りかかり、父親は会社をリストラされ酒浸りに、パートに出た母親は職場の上司と不倫をします。

どうしてこんな事に……絶望しきってとぼとぼ通学路を歩く友人に、見知らぬ女性が近付いてきました。

「ねえあなた、何か月か前に廃神社を拝んでなかった？」

「なんで知ってるんですか」
「こっそり見てたのよ。あのね、廃神社を拝むのは危険なの。氏子の信仰を失った神様は容易に祟り神に堕ちるから、手を合わせたら憑いてきちゃうのよ」
「知らなかった……お父さんとお母さんは、うちは元通りになるんでしょうか」
「ええ、もちろん」

女の人はしょげ返った友人の頭を優しくなで、「これで大丈夫よ」と微笑んで去っていきました。
謎の女と遭遇後三日と経たないうちに父親の再就職先が見付かり、母は不倫相手と別れてやり直したいと申し出ました。

十数年後、古いアルバムの整理をしていた友人は若い頃の祖母の写真を見付けました。
その顔は下校中に会った女性とそっくりだったそうです。