田辺くん
投稿者:うさうさ (1)
小学三年生のころ、クラスに不登校のやつがいた。
そいつ(仮に田辺くんとする)と同じクラスになった俺は、家がたまたま近所だって理由で毎日のようにプリントを家に届けに行っていた。
田辺くんの家は俺の家から小学生の足で徒歩五分くらいの場所にあった。
しかし、田辺くんの家は舗装された道路の傍から砂利道に入った先にあり、普通に生活していたら絶対に見つけられないだろう場所だった(実際最初のころは近所なのによく迷ってしまった)。
その家は二階建ての日本家屋で、こちらを見下ろすように建っていた。外壁がツタに覆われていて、今思えば手入れはさほどされていなかったんだろう。
敷地に入ると、なんとなく薄暗くじめじめしていて、そこだけ年中冬みたいだったのを覚えている。
玄関のチャイムを押すと、指にひやっとした固い触感がつたわり、他人の家のピンポンのなんとなく居心地の悪い音がきこえた。
家の人がでてくるまで暇だった俺は、意味もなく靴のかかとで地面をぐりぐり掘っていた。自分でやっておいて、湿った土のカビ臭いにおいで嫌な気分になった。
いつもだったら化粧っ気のない田辺くんのお母さんが玄関のドアを開けて小学生相手に「ありがとうね〜」とかお世辞を言ってくるのに、その日は代わりに田辺くん本人がでてきた。
田辺くんは長袖のだるんだるんに伸びきったトレーナーを着ていて、どこを見てるのかわからない、地味な顔をしていた。
「えっ、お前、田辺?」
「うん」
「今日お母さんは?」
「仕事でいない」
「そっか」
俺は田辺くんの素っ気ない返事になんとなく壁を感じ、同じように素っ気ない態度をとりながら、そっかこいつ不登校であまり同級生と会ってないんだなと思った。
「……マリオカートやる?」
「マジで? あんの?
やるやる」
ガキなりに気を遣った俺は、田辺くんの誘いに乗ってお邪魔した。はじめて入る室内はあまりにも普通で、なんなら俺の家よりきれいで、なんとなくホッとしてしまった。
それから田辺くんとWiiのマリオカートにそれなりに熱中しているとき、ふいに隣から生臭いにおいがしてきた。それはさっきの土のにおいによく似ていた。
「なんか臭くね?」
デリカシーもクソもない俺は田辺くんのほうを向いて、心臓が止まりそうになった。
腕まくりをした田辺くんの腕には等間隔にボコボコ穴が空いていて、なめくじが銀色の筋をつけながら、ゆっくりと出たり入ったりしていた。
その穴は真っ黒で、覗いても腕の肉どころか、なにも見えなかった。
なめくじが触角をのばしながら、田辺くんの腕のやわらかな毛をうまそうにむしゃむしゃ食うのを、俺は震えながら茫然と見ていることしかできなかった。
田辺くんは微動だにしない俺のカロンに気づくと、ゆっくりと画面からこちらに顔を向け直した。
「……お腹もみる?」
じっとりとした声が不気味だった。普通にそれまで一緒にマリオカートをしていたのが、人間じゃない何かなんじゃないかって、怖くなった。
俺は声が出せないまま勢いよく立ち上がり、田辺くんがトレーナーをまくって腹を見せるより早く、その場から逃げ出した。
ガロンで草
カロンて何?
カロンってマリオカートのキャラやろ
伊藤潤二先生に是非とも漫画化してもらいたいね。
動かないカロンでなんか草
wiiのマリオカートというすごく日常的で怖い話と無関係なものを一緒にしているのに、その相手があきらかにおかしいという点が、ゾッとしました。
ただ、田辺くんの体の異変、および這う生き物が本当だったら、怖い話以上に、一刻もはやく救急や警察に連絡して助けないといけないので、その点は若干不自然かなと感じちゃいました。
怖くてだれにも言わなかったとしても、主人公が成長した今、当時なぜ助けなかったのか、または見間違いではなかったのかどうか、といった考察がラスト部分あたりにあったらよりリアリティが増したと思います。
ナメクジ大っ嫌いだからマジで怖かった。泣いたわ
ナメクジに気付かれても動揺しない田辺くんに逆に恐怖を感じた
伊藤潤二の漫画ぽいの分かるわ
スーファミじゃなくてwiiなところに時代を感じる
先の方がご指摘しているように、いろいろ突っ込みたいところは山々ですが、リアルと幻覚が混在する(夢か現かというべきか)子どもの頃の曖昧な記憶と時代を感じさせるデティールが、逆に実話風怪談っぽくて面白く読めました。文章も上手で、状況が目に浮かぶようです。これも先の方がコメントで話されていたように、漫画化してみても面白い作品になりそうな気がします。