やって来た男
投稿者:serika (3)
10年前の実体験です。
当時住んでいた練馬の安アパートは部屋の窓が道路に面しており、小さな柵だけでベランダは無く、2階だったので窓のすぐ下は歩道でした。
日中は人通りがありましたが夜間は22時を過ぎればほとんど人が通りません。安普請ですので車の音はもちろん、歩道を歩く人々の話し声まで入り込んで来るような部屋でしたが、夜は静かでした。
ある晩の夢の中で「もうすぐ行くから」「もうすぐだから」と暗い男の声に何度も訴えかけられ、詳細は覚えてませんがともかく悪夢を見ました。そのせいで真夜中に目を覚ましたのです。
ガラケーの液晶をつけたら深夜1時を回っており、普段は絶対目覚めないような時刻でした。
ふと窓の外から足音が聞こえました。真下の歩道を歩いている人の足音です。夜間は本当に静まりかえるので、真夜中の足音というものに少し恐怖を感じ、一人暮らしを始めたばかりの私は少し神経質に耳をそばだてていました。
そのタイミングで悪夢の中の知らない男の声を思い出します。「もうすぐ行くから」という不気味な言葉。でも私は心の中で(まあただの夢だから)と思ったのです。
“まあただの夢だから”
本当に心の中でぽつりと思っただけです。するとその直後、今まさにアパートの前を通りすがる足音の主が言いました。
「夢じゃないかもよ〜♪」
あの声でした。陰気な声なのにどこか楽しげにそう言い残し、引きずるような足音はそのまま遠のいて行きました。
それから特に怪現象などは起きていませんが、今なおあの不気味な声が忘れられません。
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