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不思議体験

ノナさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

エレベーターでイタズラしたら異世界に飛ばされた
短編 2026/09/18 08:28 55view

ㅤこれは俺がガキの頃に体験した話。フェイクを混ぜるから矛盾が起きたらそういう事で。

ㅤ当時の俺は絵に書いたようなクソガキで、エスカレーターを『チャレンジ』と称して逆走するわ、エレベーターのボタンを無意味に全押しするわで、迷惑が服を着たかのような存在だった。
今思うとそれらが目に余って、こんな目に遭ったのかもしれない。

ㅤそれは夏休みを通して、とある旅館に家族旅行をした時だった。
俺はそこでも例のクソガキっぷりを遺憾無く発揮していた訳だが、大人ぶりたい時期でもあった。
だから『一人で夜の大浴場に行く』と粋がるのは、そこまでおかしな事ではなかっただろう。
ほぼ貸切の大浴場でクロールや平泳ぎをかまして悦に浸った後、『これだけじゃ大人にはなれないな』と無駄な冒険心に囚われた俺は、大浴場から直接宿泊階に降りるのではなくフロントを一通り冒険してから帰る事にした。
勿論エレベーターのボタンを全押しして。

ㅤ謎のドヤ顔をしながら意気揚々とフロントを抜け、土産コーナーを曲がり別館入口辺りまで行って引き返すというのが決めていたルートだったが、俺は別館入口付近の突き当たりで見慣れないものを見つける。
それはテレビでしか知らない、バブル期への入口めいた色のライトが照らす卑陋なエスカレーターだった。
マセガキでもあった俺は、迷わず駆け抜けた。

ㅤそこではやはり絵に書いたような、大人の盛り場が展開されていた。しかし何か様子がおかしい。
普通こんな場所にガキの一人でもいようものなら、数分と経たずに間違いなくウェイターにつまみ出されたり、大人達に揶揄われる筈だ。しかし目の前は、大都会のように俺のようなガキを無視し、ある人はパートナーと社交ダンスのようなものを踊り狂い、ある人は視点も定まらず酒に浸っている。ただ耳障りないかがわしい音楽だけが、俺を迎え続けた。

ㅤここで流石に可笑しいと勘付いた俺は、自分の『人がいない時だけイタズラする』という碌でもないビビりに感謝する事になる。とっととしっぽを巻くことで、声を掛けられ戻れなくなる前に、このおかしな異世界から逃れられたからだ。

ㅤ死に物狂いの形相で戻ってきた俺に、今度は無人のスロープが違和感を加速させる。夜と言っても俺が部屋を出たのは夜9時位なもので、まだ飲み屋やらカラオケバーのような場所は開店している。そうなればひとりかふたり位でも擦れ違うものだ。

ㅤどこを見ても、何処へ行っても、人が居ない。

俺はまだ、異世界の中に居た。

そうして彷徨う最中、『これは外に出て助けを求めた方がいいんじゃないか?』と考え始める。もう大人になるとかどうでもいい、本当に都合良くもこういう時だけは大人に助けて欲しいと願った訳だ。ただ例の卑陋エスカレーターを抜けて、そこの大人達に声をかけるのだけはまずいという事は、無意識に理解していた。

ㅤフロント正面玄関から慌てて抜けようとしたその時、またしても違和感に気付く。暗い。視界には完全な夜闇と言うべき黒に、僅かな夜霧が浮くだけだった。
昼に出た時の瞬間的記憶では何かしらの建物があり、ロータリーのようなつくりであり、少なくとも何も無いなどという事は無かった筈だ。
やはり直感的にまずいと判断した俺は踵を返し、無人のスロープを上がり、縋る思いでエレベーターに乗った。勿論ボタンは全部押さず、自分の宿泊階だけで。

ㅤこれが幸を奏してか俺は無事に部屋へと戻ることができたものの、母からこう言われた。

『ナオ(俺の渾名)、また死装束とか言って着物左前にしてたでしょ』

ㅤこの話にはふたつ、後日談がある。
ひとつはお決まりの、次に宿泊した時にはそのような卑陋エスカレーターなど存在しなかったこと。
もうひとつは、この話の卑陋エスカレーターがないだけで他の部分が──殆どそのまま、某掲示板に載っていたこと。

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