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不思議体験

あきんさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

ぱちん
長編 2026/08/02 09:31 86view

じいちゃんが亡くなったのは、俺が中学生の時だった。
火葬後の精進落としの席で、親類たちがじいちゃんとの思い出をぽつぽつと語りだして、俺もじいちゃんとの記憶を思い出していたんだ。

やさしい、というよりは大らかな、悪く言えば大雑把な人だったと思う。
真っ先に思い出したのは幼稚園児の時に、じいちゃんの車のボディに、そのあたりで拾った石で落書きをした時だ。
傷だらけの車を見て俺の両親が顔を真っ青にして謝る中、じいちゃんは俺の頭をぽんぽんと叩きながら、「こいつは将来、大層な芸術家になるかもな」と豪快に笑って許してくれた。

昔の思い出に浸ったせいだろうか。
ふと、今まで忘れていた別の思い出がよみがえった。
それはそんなじいちゃんに、一度だけ、手を上げられた時のことだ。

当時、小学生だった俺は錬金術士が主人公のある大人気マンガにハマっていた。
特にその中で指を鳴らして炎を操るキャラが大のお気に入りで、よくマネをしていた。

ただ、子供の柔らかい指ではなかなか音が出ず、ある日、学校からの帰り道で「ぱちん」と、ようやく音が出た時は、うれしくて何度も何度も指を鳴らしながら帰った。

家に帰って玄関で「ぱちん」と指を鳴らした時だ。
血相を変えてじいちゃんが廊下から現れた。
いつもとまるで別人のような切羽詰まった表情で、ぎょろりと目を見開き、俺を睨んでいた。
何かを口にするより早く、思い切り頭を殴られた。
じいちゃんが俺に手を上げたのは、それが最初で最後だった。

痛いとか悲しいとかいう感情より驚きの方がずっと大きかった。
さっきも話した通り、じいちゃんはおおらかな性格で、何事にも動じず、笑って済ますような人だった。
そんなじいちゃんが指鳴らしの音を聞いた途端、俺を殴った。
その事実に俺は泣く暇もなく呆然としていた。

じいちゃんもまた、自分の行動に驚いていたようだった。
今思えば、あの顔には怒りではなく、戸惑いと怯えがあったと思う。
じいちゃんは「二度とするな」とぴしゃりと言うと、そのまま自分の部屋へ帰ってしまった。
小学生の俺はじいちゃん本人や他の家族にその理由を尋ねることもできず、その数年後にじいちゃんは亡くなってしまった。

その話をすると席にいた叔父さんが、にやにやしながら「お前そのワケを知らなかったのか」と言い出した。
俺の親父が眉間に皺を寄せ「兄貴、子供に話すようなことじゃないだろう」と制したが、叔父は猪口をあおると笑いながら「こいつももう中学生なんだろ。別にいいじゃないか。実はな……」と、じいちゃんの若い頃の話を始めた。

俺のじいちゃんの若い頃、戦後の好景気に湧いていた日本は大量生産・大量消費のアメリカを追うように、様々なものがすさまじい勢いで増産された。そんな中、じいちゃんは製鉄所で働いていたという。

製鉄所はほぼ24時間体制で稼働しており、夜勤の人員が配置されていたが、人手が足りない時は、日勤の人間をそのまま夜勤に充てることも珍しくなかった。
当時は法律も緩く、工員の方も通常の残業代に特別手当がつくので、あえて手を挙げる者も珍しくなかったそうだ。

その日はじいちゃんと別に、もう一人、丸井という男が夜勤に入っていた。
じいちゃんと同じ頃に就職した若い男で、太眉に丸顔の穏やかな顔と性格の男だった。
彼は故郷への仕送りのために、特別手当の出る連続勤務を希望することが多かった。

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