やっとのことで就職ができ、アパートで一人暮らしをしていた23歳の頃の話です。
職場が渋谷だったので東急田園都市線の用賀に安いアパートを見つけたんです。
アパートといっても一人暮らしの大家のおばさんの普通の民家。その二階の三部屋を間貸ししただけの、共同トイレ、玄関別という、若い女性の一人暮らしには絶対ダメな物件で、セキュリティなんてもんじゃありませんでした。
安月給だったし、寝に帰るだけの部屋だからこだわりはありませんでした。むしろ大家が階下にいるので、なにかあった時には心強いと思っていました。
私の部屋は真ん中で、右隣には男性が一人入居していると大家のおばさんが言っていました。
変に関わりをもっても迷惑になるのでは?と察するのが都会生活の流儀だと信じていましたから、挨拶はあえてしませんでした。
部屋の壁はひどく薄くて、生活音は筒抜けです。
テレビの音、くしゃみの音、いびきやオナラの音までも。
でも私は気にしませんでした。
お互い様だと思っていたので、私も何度か大きなオナラもしましたよ。
当時の私は女としての自覚は全くありませんでした。
生きることに精一杯でしたから。
ある夜のことでした。
仕事が早く終わり、夕食を適当に調達し部屋に戻りました。
テレビを観ながら食べていたら、部屋の天井から突然
みしっ。ずるずる。べきべき。
と異音がするのです。「えっ?」と天井を見上げました。
木製の汚いシミだらけの天井に、約五センチほどの穴がありました。よく見るとその中に、こちらを凝視する人間のぬらっとした目玉があったのです。
「わーっ」と叫びながら、私は階下の大家さんに事情を伝えましたが、大家のおばさんは「あんた、男でもひっぱりこんだんじゃないの?」と、なんというトンチンカンな対応でしょう。あきれ果て、私は警察を呼びました。
すぐに玉川警察署から警ら課の刑事が二人部屋に来ました。
身体全体で「俺は刑事だ!」と主張しているかのような一人が、まばたきもせずに、私の目を見つめ尋問しました。
私も負けるもんか!という気概でばんばん正直に答えました。
途中で大家のおばさんが、「この人は男を連れ込んでいるんですよ」と口を挟むと、刑事さんは
「大家さんはひっこんでろ!この人は噓をついてないから」
とすごい迫力で言うと、大家のおばさんはすごすごと引き上げていきました。
しばらくして警察から聴いたこの件の顛末ですが、
隣に住んでいたのは○○という名の無職で35歳の男。
しかも、ここの大家女性とは愛人関係にあった、つまり「ひも」だった。
大家はこの男の欲望を満たすために、若い女を入居させ男を満足させていた。これが初めてではないとのことでした。
私は男の餌にされるところだったのです。歪みまくってますよ。 げろ。

























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