実際にあった話です。
子供の頃、団地の5階に住んでいました。
小学3年生の頃、住んでいた団地の隣の部屋に若い男性が引っ越してきたんですよ。若いと言っても子供の私からしたら、おじさん。今思えば大体20代中盤あたりかなと。
見た目は冴えない雰囲気、無精髭で、うつろな目をしていたと思います。すごく曖昧ではあります。絶対関わる事はないだろうなと思うほどにはこちら側に興味を持ってなさそうだし。
それに、住んでいた団地って基本的に同世代の子供がいる家族が住んでいたので、一人で住んでいる人は基本的に繋がりは生まれないからです。言ってしまえば子供ながらに興味がないわけです。
ですが、その人はなんとなく早い段階で印象的だったと言いますか。
私は、母親がベランダで服を干す時に同じくしてベランダにいるのが好きでした。母と話すのが好きだったので、結構頻繁に側にいました。
「早い段階で印象的だった」理由なのですが、
隣に引っ越してきた冴えない若い男性が団地から降りてくるのを定期的に見かけていたのですが、団地の前には並木林と言いますか、等間隔で植えられた木がありまして。
彼はその木の葉っぱを一枚ピッと取ってはポケットに入れるのが習慣だったのです。頻繁に見ていました。
決まって全身真っ黒のレインコートみたいな服で、
そろそろと降りてきては木の葉っぱを千切ってポケットに入れる。
夏でも冬でも、見かける時には必ず葉っぱを一枚。
全身真っ黒のレインコートみたいな服を着て。
目的がイマイチ分からない、団地の5階から見下げているのにこちらに気付かれる事もない。見えなくなるまでなんとなく見送っていたので、変な人だなあ。ぐらいの印象があったのです。
ある日、小学5年生の頃です。
家でテレビを観ていたら22時頃に自宅のチャイムが鳴りました。
不審に思った私と母が一緒に玄関へ向かいました。
私は次男で、兄と妹がいるのですが、一番お母さんの事が好きだったと言いますか、一番心配性なので、母を見守りたい気持ちで一緒にくっついていた感じです。
玄関先からは「隣の者です」
扉にチェーンを付けて恐る恐る扉を開けると、目の前には隣人がいました。
手には辞書みたいな分厚い本。
「こんな夜中にどうされました?」母が尋ねたと思います。
あまり覚えていません。何故なら明らかに不穏と言いますか、夜中にチャイムが鳴ること自体が珍しいので、チャイムが鳴った時は毎回なんだか怖かったです。
父は単身赴任で年に数回会えるかどうか。母が一番の頼りである我が家はそれほど心強い人はいなかったので、母が危険に会うかもしれないと緊張感があったりしました。
夜中の玄関先に隣人。
普段全身真っ黒のレインコートのような服を着た、道端で葉っぱをポケットに入れる変な人。
手に持っているのはボロボロなのに中身が白紙な辞書ぐらい分厚い本。
「この本を3000円で買ってください。買ってくれないと餓死してしまいます。お願いです。助けてください」
























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