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心霊

過ぎさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

脇見運転
短編 2025/05/22 10:39 1,443view
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北は箕面市白島から南は大阪市北区まで縦断する国道423号線。
通称、新御堂筋。この幹線道路は、北大阪のベッドタウンから勤務地の密集する大阪キタの中心街・梅田間往復の主要道路です。
大阪メトロへ連なる北大阪急行の線路を中心に、上り/下りの道路が東西に分離して走ります。
つまり新御堂筋を車で走るとき、地上を走る電車が並走するタイミングがあるんですね。

その日は梅田方面から北大阪の自宅に向かって車を走らせていました。
時刻は夕暮れ時。空が赤らみ、脇に佇む建造物にぽつりぽつりと明かりが灯りだす時間帯です。
帰宅時刻に差し掛かり交通量はやや多めで、渋滞まではいきませんがちょっと進んでは、またのろのろを繰り返しながら車を走らせていました。
車列が詰まり車が停車したタイミングで、右側を後ろから来た電車が追い越していきました。
右ハンドルの運転席から線路は案外近く、明かりの灯った電車内がよく見えます。
車窓には退勤後のくたびれた顔が並び、次々と目の前を流れていきます。

ふと、そのうちの一つと目が合いました。
淀んだ沼のように、深く黒く濁った目をした中年男性でした。
よほど体調が悪いのか、肌の色は乾いた泥のように黄色い。
のっぺりとした表情はまるでガラスに貼り付けられたように見えました。
その視線に射竦められた途端、失礼な言い草ではありますが、なにか底知れない怖気を感じ視線を逸らしました。
前の車が前進を始め、暫く車が電車と並走するその間も、ずっと見られている感じがして気が気ではありません。
殊更運転に気持ちを集中し、電車を意識しないように努めました。

数メートルの走行の後やがてまた車間距離が詰まり、車を減速させると男の乗っていた車両はそのまま前方へと過ぎ去っていきました。
車は完全に停車し、その横を駆け抜ける電車を見送りつつ、安堵を持って見遣るとそこにはまだあの顔がありました。
車両を移動している?否、そんなに速く電車内を動けるはずがありません。

走行中の電車内にありながら寸分違わない姿勢・表情のままこちらへ胡乱な視線を投げかけてくることの異常性に思い至った途端、更なる恐怖心が湧き上がりました。

車列は未だ動かず、その横を走り過ぎていく電車と、こちらを覗き続ける顔。
目を逸らしたいのに、逸らせない。
危険を回避すべく本能は、その異常を注視することを辞めさせてくれません。
頭の中は五月蝿いのに思考は纏まらず、ただただ凍り付かせた視界の中を最後尾の車両が通り過ぎました。
そこには電車の車窓のあったその場所に、座標を変えず土気色の顔が浮いていました。
写真の顔部分を切り抜いて、背景画像に貼り付けただけの雑コラのような。

何も見ていないような、それでいてこちらの心をかき乱すような、その黒い視線に吸い込まれるような感覚があり、そのまま世界が暗転し、次に意識を取り戻したときは自宅の駐車場に車を停めていました。
無事に帰り着いたことは不幸中の幸いだったのかもしれません。
不幸なこととは、あれ以来顔はずっとこちらを見続けていることです。
あの時の表情で、あの時と同じ位置を保ったまんま。

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