オカルト系YouTuberの「カナメ」は、登録者数十万人を誇る人気チャンネルの配信者だ。心霊スポットへの深夜突撃や曰く付きの廃墟探訪で再生数を稼いできた。
そして、今回の配信先は――犬鳴峠。
「ついに来ました、ヤバいと噂の“あの場所”です!」
夜中の2時、カナメはカメラを片手に峠に足を踏み入れた。薄暗い森に囲まれた道。ときおり木々が風でざわめき、何かが動く気配がする。だが彼は笑っていた。怖がれば怖がるほど、視聴者が喜ぶのだから。
「さぁ、いよいよ“あのトンネル”に入っていきましょう……!」
画面のコメント欄は大盛り上がりだった。
──「マジでやばいやつじゃんw」
──「おい、それガチで戻れないやつ」
──「幽霊よりお前の方が怖いわ」
けれど、トンネルに一歩踏み入れた瞬間、空気が変わった。妙に湿っていて、生温かい風が奥から吹いてくる。
カメラのマイクが「ゴォ……」と唸るような音を拾った。
「……今、なんか聞こえたな」
ふと背後を見ると、コメント欄がざわついていた。
──「おい、今後ろに……」
──「え?顔写ってなかった?」
──「止まった?止まってない?」
配信画面にはカナメの背後に“何か”が一瞬映ったらしい。
だが、カナメには見えなかった。彼は奥へと進んでいく。
そして、トンネルの最奥で立ち止まった瞬間。
カメラが突然ノイズで埋まり、音声が消えた。
──「え、なにこれ」
──「回線落ちた?」
──「さっきの顔、女だったよな」
数分後、カナメが再び画面に現れた。だが、様子がおかしい。
笑っている。けれど、それは彼のいつもの演出ではなかった。口角だけが引きつり、不自然に笑っているのだ。
「……チャンネル登録、お願いします。お願いします。おねがいします……」
繰り返すように、彼は画面に向かって呟き続ける。
その目は真っ黒で、感情が消えていた。
やがて映像はブツリと切れ、配信は終了した。
翌朝、警察が通報を受けて現場に向かったが、カナメの姿はなかった。ただ、トンネルの中に置き去りにされたカメラが、バッテリーが切れているはずなのに今も録画し続けていたという。
























あーそれね