少女の歌
投稿者:いきいそ (2)
我が家は正月になるといつも祖母の家に帰省している。私はいつも同年代のいとこ達と、夕方まで遊んでいた。祖母の家があるところは田舎だったので、子供たちが走り回るには格好の場所だったのだ。
いつものように帰省して、いとこ達とあぜ道で鬼ごっこをしていた時のこと。
いとこは2人いて、(それぞれA子、B太と呼ぶ)A子が鬼になり私はB太と一緒に逃げていた。
途中で二手に別れるとB太が追いかけられたので、私は2人とは逆の方向に向かった。
すると横から「ねえ」と小さな少女の声で話しかけられた。立ち止まり横を見ると、想像通り小さな少女が立っている。少女は赤色のワンピースを揺らしながら私に近づき、ニコニコしながら明るい声で言った。
「一緒に遊ぼ」
私は、今いとこと鬼ごっこで遊んでいたということを説明した。すると少女は「みんなで遊びたい」と言うので、2人に会わせることにした。
少女の手を引きながら2人を探し、やがて2人を見つけた。少女の事を説明すると2人は彼女を仲間に加えることを許容してくれた。
A子は新しい仲間の存在が嬉しいのか、興奮した様子で次々と少女に質問を投げかける。少女は笑顔を崩さずに質問に答えていくが、名前を教えることは無かった。
少女はいい遊び場所があると言い、私たちを引き連れて歩き出した。
歩いている間、少女は不思議な歌を歌う。
「つーばきつばきが咲くころにゃ、鬼さま顔出す頃合いね」
その歌にかごめかごめやとおりゃんせのような不気味さを感じたのを覚えている。実際そのような昔ながらの童謡のようだったが、一度も聞いた事が無かった私たちは何の歌か質問した。
「このお歌は、お母さんとお父さんが、いつも歌ってるお歌なの」
親が歌っているのを聞いて覚えたということだろうか。少女は続けて歌について語る。
「みんな、冬になると、鬼さんが来ないように、食べ物を用意するんだよ」
どうやらこの地域の風習のようだ。あの歌は風習を歌ったものだろう。
ふむふむと彼女の話を聞いていると、彼女はまた歌い出す。
「なーにも何にもありゃしない、家族は生贄連れ去られ。人々恐れて人柱、鬼さま崇めや人攫い」
不穏な歌詞だなあ、と思っていた所にA子が私の肩をつついた。
「怪しくない?この子…」
少女に聞こえないように耳元でそう囁くA子。A子は大人っぽくて心配性な性格だったので、心配しすぎだよーと茶化したのだが、B太は真剣な顔をしていた。
「ここ暗すぎ。ヤバいって。引き返そうぜ」
2人は真剣なトーンで喋っている。少女は歌を歌っている。幼い私はどうしたらいいのか分からなかった。
少女は緊迫した雰囲気の私たちに気付かずに、呑気に口を開く。
「でもね、鬼さんにあげる食べ物ないから、代わりを用意しなくちゃいけないの」
その言葉を聞いた途端、A子は私とB太の手を掴み、全速力で逃げ出した。
能天気な私も危険さを感じ、無我夢中で走る。
走り続けるとやがていつものあぜ道に出たが、A子は手を離さないまま祖母の家まで走り続けた。
後にA子は「あのままじゃ、私たちが生贄になってたよ」と言った。
歌詞の意味が「椿が咲く頃に鬼が来るから、食べ物をあげないといけない。食べ物が無かったら人間を捧げないといけない」ということなら、確かに私たちは生贄になっていたのかもしれない。当時は気にならなかったが、少女が名前を教えてくれなかったのも不気味だ。
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