消えた従兄弟
投稿者:陰影 (1)
祖父母の家は田舎特有のだだっ広い家で、敷地内に山や滝なんかもあった。
庭には木々が生い茂り、鯉や亀の棲む大きな池があり、たくさんの貴重品が仕舞われた大きな蔵もあったが、この規模でもその村ではどちらかと言うと“小さい家”の部類だったらしい。
それくらい、周囲には大きな家が多かった。
それは確か小3の夏休みだったと思う。
ひとつ歳上の従兄弟の正也と、祖父母の家の近所に住む同い年のたっくんと3人で、祖父の家でかくれんぼをしていた。
広い家の中には子供が隠れられる場所がいくつもあり、子供が余裕で入れるくらいの大きさの下駄箱や電話室(昔の家には電話を置く為だけの部屋があったらしい)、使用人を雇っていた時代の給仕室など、見ているだけでワクワクするような場所がたくさんあった。
たっくんが鬼になり、俺と正也が隠れる番になった時、正也が俺にこっそり「こっち来い」と言った。
まさか同じ場所に隠れようとか言い出すのかな?と思っていたら、案内されたのは屋根裏に続く階段……の、下にある小さな扉だった。
「このドアなんだと思う?」
正也がニヤニヤしながら尋ねてくるが、俺はさっぱりわからず
「知らん。はじめて見たし」
と答えた。
「俺も、じいちゃんちは何度も来てるけど今日初めて見つけた」
正也はそう言うと、扉をゆっくりと開けた。
ギギギギと古い木と金属が擦れるような音がする。
「え、入るの?やめとこうよ」
俺は咄嗟にそう言ったが、正也は聞かない。
「大丈夫大丈夫。ちょっと見てすぐ戻ってくればバレないって」
そう言って、真っ暗な扉の向こうへと入っていった。
俺はその場で待つ訳にもいかず、仕方なく正也の後についていった。
扉の中は細い廊下のようになっていた。
いや、廊下というより洞窟に近いだろうか。
ほとんど穴を掘っただけのような、整備されていない長い通路といった感じだ。
いつの間にか小さい懐中電灯を持ってきていた正也は、その頼りない光で行き先を照らしながらずんずん進んでいく。
所々にネズミの死体が落ちているのが不気味だった。
「ねえ、これどこまで続いてるの?」
正也の服にしがみついて尋ねる。
「さあ、俺も初めて入ったからわからん。でもこんな所があるなんて親もじいちゃん達も一言も言ってなかった」
正也はこの先に、子供達に見せたくない“何か”があるのではないかと思っているらしい。
「子供達に見せたくないものって何だよ」
その場にいたような怖さを感じた。
異世界への扉だったのかな