手を振る女
投稿者:やうくい (37)
昔、私が建設会社でバイトしていた頃の話です。
私にはなんの技術もありませんので、資材運びを延々とさせられていました。
その時の現場ではハイツを建てていたのですが、工期が短いためか空が明るみ始めてから真っ暗になるまで、ぶっ続けで作業をしていたため、かなりピリピリした雰囲気が漂っていました。
朝5時半に集合し、18時半に解散の毎日を繰り返していた、そんなある日。
下っ端のため、いつも5時には集合していた私は、完成間近のハイツの屋根の上に、人が立っているのを見つけました。
白いパジャマ姿の女が、満面の笑みでこちらに手を振っています。
彼女が知り合いなら笑顔で手を振られれば嬉しくなるでしょうが、全く知らない人が朝の5時に、ハイツの屋根の上からしていれば話は別です。
「なにしてるんです!降りてください!」
女はなんの返事もなく、手を振り続けます。
「危ないですよ!」
やはり反応はありません。
病気の人だろうな。そう思った私は親方に連絡することにしました。
「もしもし?」
朝の忙しい時間に電話してしまったせいか、親方の声は少し不機嫌です。
「すみません。こんな時間に。」
「おぅ、なんだ?休みたいのか?」
「いえ、違うんです。もう現場に着いてるんですけど、ハイツの屋根で変な女が立ってるんです。どうしたらいいですか?」
「どんな女だ?」
「白いパジャマを着て、ニヤニヤしながら手を振ってます。」
「あぁ、了解。今日は休みにするから帰っていいぞ。」
「えっ?ちょっと待っ…」
いきなり切られました。
ハイツの屋根を再び確認すると、あの女はまだこちらに手を振っていました。
仕方なく家に帰り、お昼頃。
親方から電話がかかってきました。
「今朝は悪かったな。他の奴らに休みの連絡をしなきゃならんかった。」
「いえ、いいんです。」
「なんで休みにするのか気になるだろ。」
「えぇ、もちろんです。」
「あの女は有名でな。人なんだか幽霊なんだか知らんが、あれが屋根に立つとその日は必ず事故が起きるんだ。人が落ちたり、資材が落ちたり、重機に巻き込まれる奴が出たりする。だからあれが出た日は仕事できない。」
「あれが引き起こしてるんですかね。」
「さぁな。あれが引き起こすのか、あれは警告しているのか。俺は見たことないんだが、たまに見える奴がいるんだ。」
「そうだったんですね…」
その日以来、あの女を見る事はありませんでしたが、今でもあの女は現れるのでしょうか。しかし、あれは何で、なぜ屋根の上に立つのか。分からない事だらけの不思議な体験です。
業界内部だけで伝わってる話感があってなかなか良かったです
人か霊かも分からないままで終わる感じが個人的には好み
従業員の身の安全を優先すにする親方は格好いい。
こん話は私も好みです。