厄移しの岩
投稿者:やうくい (37)
私の実家の近くには立派な神社があります。神主さんや巫女さんが常駐されていて、祭りの日には奉賛の提灯がたくさん並ぶような格式高いところです。鎮守の森も大変大きく、子供の頃はよくその森を遊び場にしていました。時々神主さんが見にこられましたが、懐が深い方だったので温かく見守って下さっていました。
そんな神主さんは時々、一つだけ注意をされていました。
「厄移しの岩に触ってはいけないよ。」
厄移しの岩というのは、鎮守の森にある、文字通り厄を移すための岩です。厄祓いや厄落としはよく聞きますが、厄移しは珍しいかもしれません。やり方は簡単で、神社から頂いた木の板で全身を軽く叩いて厄を移し、木の板を厄移しの岩に投げて当たったら完了です。当たらなければまた木の板を頂いて当たるまで繰り返します。岩は木の板から厄を吸いとるらしく、厄祓いや厄落としと同じ効果があるそうです。岩には触れてはいけないので、人が岩に近づけないように塀で囲まれていました。よく遊びに行くのでたまに見かけたのですが、巫女さんが木の板を回収する時も塀の外から熊手を使われていました。
ある日のこと、私達はいつも通り森で鬼ごっこをしていました。その時は私が鬼で、運動神経が良かった私は同じように運動神経が良い友人のAを全力で追いかけていました。木の周りをぐるぐる回ったり、高いところから飛び降りたり、激しい追いかけっこをしていたと思います。しばらく追いかけていると、Aが唐突に塀を乗り越え、厄落としの岩によじ登ったのです。私は驚いてAに言いました。
「岩に登ったらダメなんだよ!」
しかしAは得意げに鼻を鳴らしこう言います。
「岩が怖いのか?追いかけてこないなら俺の勝ちだぜ」
しばらく葛藤しましたが、神主さんの言葉を無視できず私は降参しました。
その後は何事もなく夕方まで遊び、私達は解散しました。
次の日の学校にAは来ませんでした。
登校中トラックに撥ねられたそうです。
幸い命は助かりましたが、下半身が動かなくなり車椅子を使わないといけなくなりました。その時から活発だったAは別人のように暗くなり、次の年に崖から転落して亡くなりました。Aに起きたことが厄移しの岩に登ったせいなのか、私には分かりません。でもあの日以来、私はあの神社に行けずにいます。
ゾッとしました。
引きずる怖さがあるね。
ぞくりときました
遊んじゃダメな場所やん!