浅野恵子は通り魔に襲われた
投稿者:とくのしん (65)
浅野恵子(仮名)は通り魔に襲われた。都内でごく普通のOLをしていた浅野恵子は、その日も変わらぬ日常を過ごしていた。満員電車に揺られながら出社し、いつものように淡々と業務をこなして退社した。その日は急な仕事を退社間際に押し付けられ、少しばかり遅くなってしまったがそれ以外は何一つ変わらない日常のはず・・・であった。
最寄り駅を降りると時刻は21時半近くになっていた。時計を見ながら駅前のコンビニで夕食のおかずと晩酌用のビール、つまみを購入し店を出た。駅から自宅までは徒歩15分、家に帰ればなんだかんだ22時を過ぎるだろうか。時間を気にした彼女の足はいつもとは別の道へと向いていた。
暗い線路沿いを一人歩く。この道は自宅への近道であるが、夜間になると人通りがめっきり減る。女の一人歩きには向かないことは重々承知しているが、22時から始まるドラマに間に合わせたい一心で彼女は帰路を急いだ。彼女はふと、自分の足音以外にもう一つ足音があることに気づいた。自身が履くヒールのカツカツという高い音に紛れ、男性の革靴が出すコツコツというような足音が背後から聞こえた。
浅野恵子は気にしないように歩く。通りに彼女ともう一つの足音だけが響いていた。
跡を付けられているような錯覚さえ感じた彼女は、バッグからスマホを取り出し万が一に備え、すぐに110番にかけられるよう準備した。スマホに表示される110という数字に少しばかりの安心感を得た彼女は、背後から聞こえる足音の正体を確認すべく意を決して振り返る。
しかし、そこには誰の姿もなかった。
彼女の背筋は凍り付いた。姿は無いのに足音だけは聞こえる。それは確実に自分に迫ってくる。スマホを握りしめたまま彼女は走り出した。
恐怖だった。ただただ恐怖だった。
姿形がないのに足音だけが自分に迫ってくる見えない恐怖に、彼女は心底震えた。言い知れぬ恐怖に彼女は走り続けた。自身の息遣いとヒールの音、そして手に持つコンビニ袋がかすれる音が忙しなく聞こえる。その音に混じってあの足音も確かに聞こえていた。
高架下のオレンジ色の照明が見えた。
あの高架下を過ぎれば自分のマンションまでは目と鼻の先。高架下に彼女は全力で駆けこんだ。半分くらい進んだところで彼女は一度足を止めた。ヒールを履きながらの全力疾走に限界が訪れたからだ。膝に手をついて大きく息を整えながら、背後へと視線を向ける。背後から迫る人影も足音も聞こえない。上を通る電車の音だけが聞こえていた。
十数秒、彼女は立ち止まり呼吸を整えた。電車が通り過ぎ、高架下には再び静寂が訪れる。
何も聞こえない・・・謎の恐怖から逃れた安堵感から彼女は大きく息を吐いて前を向いた。そのとき前方からあの足音が聞こえた。足元には自分に伸びる人影がそこにあった。
そこで彼女の意識は途絶える。
次に気が付いたとき、彼女は赤色灯の光をぼんやりと地べたにへたり込むように座りながら眺めていた。状況が呑み込めない彼女がふと地面を見ると、見知らぬ女性が血まみれで倒れている。驚いた彼女は大きくよろけた。咄嗟に地面に手を突いたとき、自分が何かを握っていることに気づいた。
血のついた包丁。
慌ててそれを放り投げたとき、数人の警官に一斉に取り押さえられた。何が何だかわからない彼女は抵抗することなくそのまま署へと連行されていったという。
浅野恵子は殺人罪で逮捕された。目撃者の情報によると彼女は路地を歩いていた被害者にいきなり襲いかかったそうだ。馬乗りになりそのまま滅多刺しにしたという。しかし彼女にはその記憶がない。
彼女は否認した。自分は絶対にやっていないと。しかし物証と目撃情報から浅野恵子が殺人を犯したことは明白。それは疑いようのない事実だった。
捜査担当刑事は困惑した。調べれば調べるほど、事件には不明な点が多かった。何しろ浅野恵子と被害者に接点がない。殺害する動機すらない。突発的な通り魔としても彼女にはそのようなことを犯すきっかけすら見当たらなかった。
通り魔事件によくある社会との繋がりすらなく孤独であるとか、不平不満を匿名掲示板やSNSに書き込むといった行動は微塵もなかった。
彼女の職場の同僚も口々に言った。「彼女は仕事もできて人望も厚い。だからそんなことをするはずがない」と。家族、友人といった彼女と関わりのある者全てがそう答える程、彼女は人格者であった。
さらに凶器となった包丁の入手ルートがわからなかった。当日の足取りではコンビニに寄ったことは判明しているが、購入したものに凶器となるものはない。事前に購入したものとして捜査したが、彼女がネットを含め近隣で凶器を購入したという形跡は発見することはできなかったという。捜査は混迷を極めたが、物証という確固たる証拠がある以上、浅野恵子を起訴せざるを得なかった。
「彼女は通りに落ちていた包丁を手にし、突発的な衝動にかられ事件を起こした」
警察はそう結論づけた。
彼女は最後まで無罪を訴えたが、長い裁判の末懲役15年の判決が下った。彼女はその判決を黙って聞いていた。
高架下に逃げ込んだあと、前方から足音が聞こえたのを最後に記憶が途絶えた。その直前、足元には何者かの人影が見えたというかすかな記憶が残っていた。照明に照らされたその影が彼女の影と重なったとき、誰かが自分の中に入り込むような感覚があったという・・・それが最後の記憶。
次に気が付いたとき、私の足元に彼女が倒れていた。それが全てだと浅野恵子は語っていた。
これは精神疾患やな(/_・、)。
検事さんも裁判長も本来罪問えない人に処罰するという(゜Д゜)。
やらかしたね(/_・、)。
信じ難いが、稀にあることかもしれない。
物証だけで服役だとは可哀想ですよね。
サイドエフェクトって映画、思い出した。
あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
そゆことですか〜〜〜