古い茶碗
投稿者:Vから西へ (3)
最近、京都にある実家に帰省した時の話です。実家には70歳代の母親が一人で暮らしていました。私が帰省したのは、5年ぶりぐらいでしたので、母親はとても喜んでくれ、用意してくれた夕食を食べながら、母親の近況を聞いていました。
最初、母親は楽しそうに話していたのですが、突然顔色が暗くなり、実は・・と話し始めたのです。母親の話によると、数か月前に、京都のあるお寺で毎月21日に開催されている骨董品や食器などを売るイベントに行きました。食器が好きな母親は、食器を主に扱っているとある店で、なぜかその店が気になり、立ち寄りました。
母親は、同世代と思われる高齢の店主に「こんにちは」と声をかけるも、店主は俯き、反応せずに独り言をつぶやいており、不気味な印象を持ったようです。
その時、店主は俯きながら、自分の横に置いてあった木箱を両手で持ち上げ、母親に渡してきたのです。母親は、不気味に思いながらも、不思議とその木箱のことが気になり受け取りました。
木箱の蓋を開けると、その中には薄汚れた土色のお茶碗が入っていました。とても、食器として使えるような物ではありませんでしたが、母親はその茶碗を購入することになりました。
店主に値段を聞くと、店主はか細い声で、「ただでいい。但し、毎日欠かさずに小銭を入れてから使ってほしい」という変な依頼でした。
それでも良いと母親は茶碗を購入し、自宅に持ち帰りました。早速、母親は夕食で使用しようと、茶碗を木箱から取り出し、丁寧に洗浄した後、店主のいいつけ通りに10円玉を茶碗の中に入れました。
するとその時、「りーん」と鈴の音が聞こえました。隣の家が、仏壇の鈴を鳴らしたと思い、特に気にしなかったそうです。
10円玉を取り出し茶碗にご飯を盛り夕食を食べ、就寝しましたが、特に問題はなかったようです。
次の日、母親は朝ごはんで茶碗を使おうと、再び10円玉を入れました。すると昨日同様に「りーん」と鈴の音が聞こえたのです。
不思議に思いながらも、朝ごはんを済ませて、その日はゴミの回収日だったので、ゴミを出しに外に出るとちょうどお隣さんと出くわしました。
母親は、お隣さんに、最近、仏壇の鈴を鳴らしているかと聞くと、お隣さんはそのような習慣はないと答えたそうです。
あの鈴の音は、何だったのか?と母親は不思議に思いました。それから、毎日茶碗に10円玉を入れる度に「リーン」と鈴の音が聞こえるそうです。
ある日、母親は高熱を出し寝込み、その日は食欲がわかず茶碗を使わなかったそうです。すると、その日の深夜3時過ぎに、母親は金縛りになり、枕元に人の気配を感じ、視線を動かすとなんと、そこには茶碗と鈴を持った托鉢しているお坊さんが立っていたのです。
母親は、そこで意識を失いました。母親は目覚めるとすぐに、茶碗を持ち知り合いのお寺に行き、昨日起こったことを住職に話すと「おそらく、托鉢中に無念にも事故死した坊主が今も托鉢を続けているのでしょう」との事でした。
茶碗は、供養してもらい、その後は特に何もないようです。その後、あのイベントに行きますが、茶碗を買った店は見かけないそうです。
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