805号室
投稿者:ジェニナ (1)
看護師として働いていると様々な場面に遭遇する。人の誕生の場面、人生の終わる場面、時に常識では理解できない場面に遭遇してしまうのである・・・。
これは看護師として内科病棟に勤めていた時の話だ。
「805号室の女の子って知っている?」噂好きの上司が新人看護師に話しかけているのが聞こえてきた。これは新人が初めて夜勤を経験する際に上司が必ず話していることだ。話を聞いておびえている新人をみて楽しむのがお決まりらしい。
私もその話をされた一人である。話の内容は、805号室に入院した患者さんが、時々女の子の霊を目撃しナースコールで助けを呼んでくるというものであった。私も話を聞いた当初はやや恐怖していたが、内容的にテレビでよくみるようなものであり、上司の本心も理解してしまったからか、恐怖心はなくなりおびえる新人看護師をみてひっそりと楽しむ立場になっていた。
ある日の夜勤中「おばあちゃんが騒いじゃってる」とのナースコールがあった。4人部屋の1人の高齢の患者さんがせん妄(環境に適応できずに幻覚や幻視がおこってしまう)症状で大きな声で騒いでしまっていた。「こわいこわい、上からみてくる」対応している間ずっと患者さんはこの言葉を繰り返していた。
せん妄の患者さんの対応は何度もしてきたが、このときはやや、冷静ではいられなくなってきていた。対応していた部屋は805号室なのである。上司のあの話が頭をよぎる。
そして続けざまに「女の子が走ってうるさいんだ!」と叫ぶ患者さん。その時「パタパタパタッ」と音が聞こえ、私の後ろで止まった。息をのんで振り返ると「せんぱーい、大丈夫ですか」同勤務の後輩であった。ほっとしたのとやや恐怖してしまった自分が馬鹿らしくなった。今まで心霊の経験はないが、ホラー映画や恐怖特番などが好きで、もしかしたらこれはと期待していたのかもしれない。
患者さんも落ち着き、業務に戻るとまた、「ちょっとごめん」とナースコールがあった。先ほどナースコールでおばあちゃんが騒いでいると教えてくれた患者さんからであった。この患者さんはよく入院する方で、顔見知りでありいつもフレンドリーで親しくさせていただいている。病室に向かうと「ちょっと」と手招かれた。顔色が悪い。病状が悪化してしまったのかと心配し近づき声をかける。
「違うのそこ」と上のほうを指さす。振り返り指のほうをみる。私は目をみひらいた。天井と敷居のカーテンの間にあったのだ、顔が。おかっぱのような女の子の顔が。息をのんで一思いにカーテンを開ける。そこには何も、だれもいなかった。今まで生きてきて、心霊経験はなく霊感などないと思っていたが勤続6年目にして経験した出来事である。上司の話は馬鹿にできない。
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