田んぼの白い影
投稿者:比古の君 (1)
あれに遭遇したのは、まだ自分が高校生だった平成半ばの頃です。
自分の実家は山陵から広がる丘陵地を開削したいわゆるニュータウンにあり、実家自体は町の外縁部に近い場所にあります。
そんな町の外縁部はかつての農村地域と接していて、家から少し歩くと歌に歌われたような里山の風情が未だに残っています。
田んぼを潤す小川には小魚やザリガニが生息し、初夏にはホタルが水田の上を舞飛び、儚い光が水を張ったばかりの水面を照らすと、幽玄な趣きを醸し出すのがとても好きでした。
当時の自分は部活を終えてから帰宅したら、晩ごはん前に愛犬を散歩に連れてゆくのが日課で、ホタルが出る田んぼの小川に沿った小道は、お気に入りの散歩コースでした。
いつも通りに帰宅して犬の散歩へ出たある日、ホタルがよく出るあたりに白い人影が見えたので、ホタル見物の人だろうと思い、余り気にせずに犬とホタルがいる方向に歩いていきました。
しかし、少しずつ近づいていくと、その白い人影は3人はいるように見えるのに、同じ場所から動かず、ホタルを愛でる訳でもなく、ただ漂っているような感じがして、何とも言えない不思議な感じがし始めました。
十数メートル近づいた時、犬が異変に気づいたようで、犬を連れている相手に対するのとは違う、みたことのない警戒感を示し始めました。
これは引き返した方がよいのかと思い足を止めたら、目と鼻の先の畑に白い影がスッと現れ、先にいた白い影たちと一緒にこちらに漂いながら、向かってきました。
現れ方や接近の仕方が明らかに普通ではないので、流石に寒気がして怖くなり、犬と一緒に逃げました。少し走って振り返ると白い影たちは消えていて、いつも通りホタルが舞っていました。
流石に気持ちが悪いので、違う道を散歩して帰り、親に話しましたが、夜は変なのがいるから一人で田んぼに行ったら危ないと注意されただけでした。
結局、白い影に遭遇したのはその時だけで、今でも田んぼにはホタルが変わらず舞っています。帰省して家族を連れてホタルを見に行く度に、あれはなんだったのかと思います。
怖がらすといけないので家族には黙ってますが、ホタルは亡くなった人の魂とか言う話しもあるので、もしかしたらまだ川が治水工事をされる前に洪水を起こした際、亡くなった人の命日だったのかもとか思ったりします。
くねくねの仲間かな?
ご冥福をお祈りします。