大学の研究棟で見かけた、いるはずのない女子学生
投稿者:火達磨小僧 (1)
今から20年近く前の話です。
僕はある地方大学の文学部に通う男子学生でした。
1・2年生の時はサークル活動やアルバイトに忙しく、それなりに楽しく過ごしていましたが、3年目になって研究室に所属してからは、ゼミの発表の準備が結構大変で、よく大学に泊まり込んで準備するようになりました。
それほど規模の大きい大学ではなかったのですが、学部が違うと顔と名前は一致しないことも多く、夜のキャンパスの暗い廊下で何人かとすれ違っても、それほど気にすることもありませんでした。
特に、理工系の学部生は、研究室によっては泊りで実験していることも頻繁にあったので、そんなものかなぁというくらいの認識しかなかったです。
ただ、少し気になる女子学生がいました。
他の学生と同じくいつも実験用の白衣を着ていて、夜たまにすれ違います。
長くてきれいな黒髪で清楚な雰囲気ですが、けだるげな表情がなんとなく不似合で不思議な魅力があり、僕はゼミの準備が大変ながら彼女の姿を見るのが少し楽しみになっていました。
とはいえ、声をかけるほどの勇気もなく、特に喋ったりはしませんでした。
そんな生活が2年ほど続き、僕はなんとか就職も決めて無事に卒業できることになりました。
最後のゼミの発表も無事に終えたのですが、いつも泊まり込んでいたくせが抜けず、その日もなんとなくだらだらと遅くまで残っていました。
卒業前に少しでも彼女と話をできたらいいなという下心もありました。
「どうせもう卒業するから、上手くいかなくてもいいや」という気持ちもあり、話せるチャンスを伺っていたのです。
ところが、いつもいる彼女が今日はいませんでした。
「まあ仕方ないか」と思い、その日は帰りました。
まだ卒業まで何日かあったので何度か試してみたのですが、やはり彼女には会えませんでした。
「彼女も就職や卒業が決まって、遅くまで残る必要がなくなったのかな」などと思いながら、なんとなく寂しい気持ちになっていました。
ただ、未練がましくてなかなか踏ん切りがつきませんでした。
そこで、卒業前のサークルの送別会で、思い切って理工学部の友人に「いつも遅くまで残って実験を頑張ってた女の子って、どんな子?」と聞いてみました。
友人は不思議そうな表情をしました。
「うちの学部、男しかいないけど……」と言うので、僕は混乱しました。
結局よく分からないままで、その後の飲み会は上の空でした。
卒業するまでの短い間、ひょっとして大学で昔なにかしらの事件や事故があったのかとも思って調べたのですが、結局なんの情報も出てきませんでした。
彼女が誰だったのか、いまだによく分かりません。
私も大変気になる