映画館の死にたがり

私はその日従妹を誘って、映画館に行きました。

どうしても見たかった映画があり、友達は既に見ていたので、従妹を誘いました。

あまり乗り気ではなかったけど、私が頼み倒してやっとこさ重い腰をあげてくれたのです。

映画が始まる数分前に滑り込みで、座席に座りました。

私のわがままで、長蛇の列のワッフル屋さんに並んでいたらこんな時間ギリギリになってしまいました。

案の定、私に連れまわされた従妹はブスっとして怒っているようでした。

私はこの映画を見たら、帰りに従妹が大好きなおせんべいを奢って機嫌を取ろうと思っていたのです。

映画が終わって隣の従妹を見て、びっくりしました。

あまり感情を表に出さない従妹が泣いていたからです。

私からすると思ったより感動しなかったんだけど、泣くほど感動したんだとすごく驚きでした。

そして映画が終わってもなかなか席を去ろうとしない従妹に「そろそろ出ようか？」て聞いたのです。

だけど従妹は「気持ちが悪い」と言って、席を立ちません。

あまりに調子が悪そうにするので、私はひたすら従妹の背中を擦ってあげました。

しばらくしたら従妹がやっと立ち上がりました。

そして急に私の手を引いて、急いで映画館を出たのです。

従妹は昔から不思議な人だったけど、その日は輪をかけて不思議でした。

でもその後私はとんでもない話を聞いたのです。

映画が始まってすぐに私の隣に人が座ったんだそうです。

その人は刃物を取り出して、自分の首を傷つけ始めたといいます。

そして隣の私に「死にたい死にたい」と言い、「一緒に死のうよ」とずっと隣でぶつぶつ呟いていたらしいです。

従妹はその人が怖すぎて、ずっと映画をまともに見なかったといいました。

泣いていたのもそれが怖かったかららしいです。

従妹が視える人だとその日初めて聞きました。

そして映画が終わって、その死にたがりの人が別の人に気を取られている隙に、私を連れてダッシュで外に出たといいました。

まったく知らなかったけど、その話を聞いて急に背中が寒くなりました。

従妹がいて良かったし、もしその人が着いてきたら影響を受けていたかもしれないと言われたので、心からほっとしました。

当然、帰りには従妹の大好きなお煎餅を奢りました。

映画館にはよくそういうのがいるらしいです。

私はそれを聞いて、映画館に行くのが少し怖くなりました。