横浜中華街の不思議な店
投稿者:くやり (24)
数年前、横浜中華街に観光に訪れた時の出来事です。
当時一人で中華街を訪れた私は、特に口コミなどは参考にせず歩き回り気になった店を覗いていました。
そのうちどんどん表通りから逸れて入り組んだ裏路地に迷い込み、気付けば周囲から人が消えていました。
迷子になっちゃったかなと不安になってきょろきょろしていると、路地のどん詰まりに一軒の店を発見しました。
どうやら骨董屋のようで、趣あるたたずまいに心を惹かれて敷居を跨ぎました。
「いらっしゃい、お嬢さん。ゆっくり見ていきなさい」
奥のカウンターでは黒い人民服の老人が煙管をふかしていました。なんだかタイムスリップし、昭和初頭の上海に迷い込んだようでドキドキしました。
言われるがまま棚から棚へ移動してみれば、何かの干物やミイラのような不思議な物が陳列されています。
店に展示された得体の知れない商品に興味をそそられ、老人に尋ねました。
「この店は何を売ってるんですか?」
「寿命だよ」
「えっ?」
「お嬢さんはどうだね。特別に安くしとくよ」
「ええと……仮に一年寿命をもらうとしたら、こちらは何を払うんでしょうか」
「そうさねえ。右目をもらおうか」
冗談かと思って笑ったものの、老人の目は全く笑っておらず気まずくなって店を出ます。
怪しい店を離れてしばらくすると、急に視界の右半分が暗くなって戸惑いました。
驚いてしゃがんだ拍子に、行く手を猛スピードで横切った車がレストランに突っ込んでいきます。
もし立ち止まってなかったら……後から考えてぞっとしました。
私は右目を失明しました。後日再び中華街に行きましたが、どんなに捜してもあの店は見当たりません。
私は右目の視力と引き換えに、一年だけ延命に成功したのです。
死の宣告じゃん