おもちゃのお医者さん
投稿者:くやり (24)
短編
2022/02/16
12:16
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私は昔ながらの商店街でおもちゃ屋を経営する傍ら、ボランティアでおもちゃのお医者さんをしています。
先日、店にミニ機関車が持ち込まれました。
依頼人は三十代前半の主婦で、「息子が大事にしているおもちゃです」と一言告げました。
数日後……修理を終えて最終点検を行っている時、小柄な影が作業場を駆け抜けていきました。
背丈から推測するに幼稚園児でしょうか。
近所の子がもぐりこんだのかと勘違いし、機関車を手に持ったまま追いかけた所、さらに奇妙な現象に見舞われました。
店内に見本として展示していたおもちゃのレールの上を、しゅっぽしゅっぽと汽笛を上げてミニ機関車が走り出したのです。
恐怖と驚きで立ち尽くす私の裾を誰かが引っ張り、小さい声でおねだりしました。
「僕も走りたい」
言われるがまま直したばかりの機関車をレールに置くと、それはひとりでに走り出しました。
プラスチックのレールの上を一巡した機関車が失速して止まり、どこからか甲高い男の子の声が聞こえてきました。
「楽しかった」
後日おもちゃを引き取りにきた主婦にこの奇妙な体験を話すと、思いがけない真実が明らかになりました。
「先月事故で亡くなった息子です。これはあの子の形見なんです」
生前の男の子は貧しくてレールを買えず、誕生日プレゼントに贈られた一台きりの機関車をそれはそれは大事にしていたそうです。
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良いお話でした。フェイクなのかはわかりませんが、ご冥福をお祈り致します。
いい話ですね。
さすがプロの作家さんです。
状況が映画の様にスムーズに頭の中を駆け巡ります。