夜中に聞こえる、落ち武者の足音
投稿者:右後ろの人 (6)
私の父から聞いた話です。
父が若い頃、地元でちょっとした起業ブームが起こりました。その内容は、陸上で魚の養殖をするというもの。
養殖施設はかなり広い土地が必要ということで、地元でも人の手があまり入っていない土地を多くの人が買い、開墾し、養殖施設を作っていました。
その開拓者の中に、父の友人がいました。仮にAさんとします。
このAさんが開墾した土地には古い地蔵があり、当人が気味悪がっていると『平安時代にこの土地へ逃げ延びてきた平家の落ち武者たちの霊を弔っているのだ』と、とある老人が教えてくれました。その老人は加えて、『地蔵は別の場所に移し、きちんと祀るべきだ』と忠告したそうですが、幽霊なんて一切信じないAさんは地蔵を壊し、養殖場を作ってしまったそうです。
それから半年後、Aさんの養殖場は稼働をはじめました。
当時の陸上養殖は停電や魚泥棒に備え、養殖場の近くに小屋を建てて、仮眠をしつつ見張りをするのが一般的でした。その頃になると、私の父も別の場所で養殖場を開き、同じように小屋で番をしていたそうです。
……そんなある夜、Aさんから父に電話がかかってきました。時計を見ると、深夜2時。
こんな時間に何事だと思いながら父が電話に出ると、Aさんが「足音が、足音がするんだ」と震えた声で言います。
「ほら、聞こえるだろ」と言うAさんに言われるまま電話口で耳を澄ますと、養殖場から出る水音に混じって、ガチャガチャと重たい何かが歩くような音が。
「聞こえるだろ。な?」と、不安そうな声が返ってきましたが、父の頭の中にはAさんが地蔵を壊した話が浮かんだそうです。
結局、その日の足音は次第に消えていったそうですが、Aさんは次の日も、その次の日も謎の足音を聞くこととなり、それから半年もしないうちに、Aさんの養殖場は潰れてしまったそうです。地元の人間の間では、地蔵を壊してしまったことが原因だ。と、噂されていたそうです。
信じない人は平気でそういうことをするからね。
罰が祟ったのだと思います。