最期の挨拶に来てくれた愛猫
投稿者:シロ (1)
私が高校生のころ、実家で飼っていた黒猫がいました。名前はリチャード。私のつけた名前でした。
マイペースな性格で、基本的には家にいつかずどこかをほっつき歩いているのですが、餌をねだる時と寝る時だけは甘えてきます。
猫ってそういうものだと思っていましたから、不思議はないのですがちょっと変わってるなと感じることもありました。何がということわけではなかったのですが、普通ならば嫌がるようなことも割と気にしないところや、妙に人間くさく感じることがあったんです。
一緒に遊んでいてテンションが上がり、ちょっとやりすぎたと思ったら恥ずかしそうに退散したり、阪神大震災の時、大きく揺れて家族で集まっている時、その輪の中に震えながら入ってきたり。
たくさん猫を飼っている方ならば普通と思うかもしれませんが、私にはそんなところが人間臭く、そこがリチャードの面白いところだと思っていました。
そんなリチャードは私のことを良い友達だと思っていたのだと思います。構って欲しい時にやってきて、適当に遊んで、飽きればささっとどこかに消えていく。私は友達ではなく懐いて欲しかったのですが、母にはかないませんでしたね。夜寝る時、不安な時、怖い時などは私の母のところに行き、安心しきって丸まってましたから。
やがて高校を卒業した私は就職して家を出ました。猫は恩をすぐに忘れる、なんてことを聞いたことがあったので、リチャードもやがて私のことを忘れてしまうのかな、とちょっと寂しく思っていました。
新しい仕事、新しい生活、新しい仲間と楽しく過ごしていると、実家は自然と遠のきました。次に実家に帰ったのが夏休みだったと思います。4月に家を出て約4か月振りの帰省。親には自分がいつごろ帰るかは伝えていましたが、その時間は不在とのこと。合鍵で実家の扉を開け家に入ると、玄関でちょうどふらふら歩いているリチャードと目が合いました。
その時のリチャードの表情は傑作で、ものすごく驚いた顔をしてたんです。私を認識したのでしょう、すぐにゴロゴロと喉をならし体を捻り仰向けになりながら、私に甘えてきました。
ああ、リチャードは私のことを覚えてくれてたんだ! 猫が薄情だ、猫は恩をお忘れるなんてことは嘘で、きちんと私のことを覚えてくれていた。それがすごく嬉しかったのを覚えています。
久しぶりだったのでリチャードが好きだった背中をよく撫でてあげてると、ちょっと痩せたのか、ちょっと細くなった気がしました。ひとしきり撫でたところでリチャードも気が済んだのか「にゃ」となき、玄関に顔を向け”外に出して”とねだってきたので、私は外に出してあげました。
時が過ぎ、研修期間が終わった私は遠い他県に移り住むことになりました。
雪の降る町では、実家での生活と大違いで、馴染むのに少し大変でしたが、その分新しい刺激や楽しみも増え、生活は充実していきました。そこで済んだ数年の間、時々実家には帰りましたが、リチャードは会うたびに痩せていくようでした。
ある夜、少し寒くなった時期だったと思います。私は不思議な夢を見ました。
普通の夢を見ていたのですが、急に場面が変わり、私は実家に帰っていました。居間にいると玄関から妹の呼ぶ声がしました。
「お兄ちゃん大変や、リチャードが変なんなってる!」
私は急いで外に出ると、門を出た駐車場にリチャードがいて、仰向けにひっくり返っていました。そして化け物のように大きな口を開いているのです。急いで私は家に入るのですが、何をどうしようとしたのか、そのあとどうなったのかもよく覚えていません。
はっと目が覚めると朝でした。リチャードが夢に出てきた、それは明け方だったんだ。それは確か。なんとなく胸騒ぎがして。でもただの夢と思い、気にしないようにしました。怖い夢ならばいくらでも見たことがあるから。
その夜、母から電話がかかってきました。
「大変なんよ」と母。私はことを察してこういいました。
「リチャード、死んだん?」
すると母は驚いて「なんでわかったん! そうやねん」と細かなことを教えてくれました。
今朝、まだ暗いうちに家を出たリチャード。明るくなってきて妹が家の外を見ると、門の外の駐車場のあたりでリチャードが倒れていたそうです。なんか様子がおかしいと近づいてみるとすでに死んでいた。
猫は死に際姿を隠すという話がありますが、リチャードは最期は家族に会いたかったのかもしれません。
細かな話を聞くと、私はああやっぱりそうだったんだ、と驚きよりも納得する方が多かった。そしてリチャードは最期の時に、遠く離れた私のところに会いに来てくれたんだと確信しました。
最期の時、近親の者が恩のある方のところに会いに行く話は聞きますが、猫が会いに行くという話は聞いたことはありません。やっぱり愛猫のリチャードはちょっと人間臭い猫だったなと、今でも思っています。
実家ではリチャードがいなくなりすぐに、新しい猫を飼いました。不思議な縁でやってきたその猫も黒猫でした。目の色は違う、性格も全く違う猫でしたが、リチャードと何かしらのえにしがあったのかな? そう思うことがあります。
良い話。
リチャードが護ってくれていますように
いや、猫を外に出すなよ
うちの猫もそんな感じでした。
リチャード君はオスですよね!