軽い怪我で終わった不思議な体験

今から20年以上前の話になりますが、私が社会人になったばかりの頃に体験した話です。

私は、高校を卒業してすぐに工業の会社に就職しました。レーザー加工という大きな鉄板をレーザーで切断したり、穴を開けたりといったプログラムをパソコンで作成し、精密機械に取り入れ加工していくという仕事をしていました。

先輩に教わりながら3ヶ月程勤めて、やっと1人でプログラムを作成し、操作までできるようになりました。

そんな時、私はミスをしてしまったのです。

普段は、5cmの四角に切り抜く時に、切り抜いた鉄板が下に落ちないように、完全に切断せずに、3mm残して加工が全て終わった後にハンマーで叩いて取り除くという作業なのですが、私は、3mm残すところを5mm残してしまい、ハンマーで叩いても取り除きたい鉄板部分が取れませんでした。

その状況を近くで作業しているおじさんがこちらを見ながら笑っているのが、私の視界に見えました。

私は気にせず、歯を食いしばって力を振り絞り、ハンマーを振り下ろしました。

取り除きたい鉄板部分が取れた瞬間、見えているもの全てが白黒になりました。

私は何が起こったのか全くわからず、さっきまでの状況を思い出しました。歯を食いしばってハンマーで取り除きたい鉄板部分を叩いていた事を把握しました。

そして、身体を動かそうとした時、身体が動かず、目だけが動く状態になっていました。

おかしいと思い、目だけを動かして、私を見て笑っていたおじさんを見ました。おじさんも動いていません。そして、下の方で何かが動いているのが見えました。

視線を動いている方へ向けると、なんと取り除こうとハンマーで叩いていた鉄板部分がゆっくりと回転しながら、私の顔を目掛けて近づいてきていました。

その時私は、何故かこの回転している鉄板に当たったら、歯が折れると思いました。

どんどん近づいてくる鉄板を避けないといけないと思い、身体を動かそうとしていたら、少しだけ身体が動いた瞬間、回転していた鉄板が顔に当たりました。当たった瞬間、今まで経験してきた事が高速映像のように見えました。

気付くと、何かがポロッと落ちました。それはすぐ歯だと気付きました。口を押さえて、その押さえた手を見ると血だらけでした。

私は、すぐ歯医者に行き治療してもらいました。

左の前歯が1本欠けて、下唇を少し切った程度でした。

偶然にも、回転してきた鉄板の角が左の前歯1本に当たり欠けたのと、鉄板が下唇に少し当たって切れた程度でした。

回転しながら向かってくる鉄板から逃げようと身体が少し動いたから、この程度で終わったと思うと、あの時身体が動かなかったらと考えると20年以上経った今でもゾッとします。