隣の部屋から覗いてきた人
投稿者:T.N (2)
これは私が大阪の北の方で大学生をしていた頃の話です。ずいぶんだらしない生活を送っていた私は、学校の授業に出かけて、帰ってきては部屋でゲームにふけるような生活を送っていました。
毎日毎日そんな生活を送る中で、ある日自分の部屋に異変が生じました。甘ったるい匂いが部屋の中に漂うようになったのです。ただ、いい匂いではありません。なんかこう鼻腔にこびりつくような臭い匂いです。
最初、自分の部屋が汚かったので、なにか知らない間に腐らせてしまったのではないかと思い、必死になって部屋を掃除しました。排水溝を掃除し、トイレを死ぬほど磨き、冷蔵庫もキレイにしました。それでも匂いは取れません。
徐々に自分の部屋で寝るのが辛くなってきて、友人宅に転がり込みました。数日ほど過ごすとやはり友人もめんどくさくなったのでしょう。ついに追い出されることになってしまいました。丁度、初夏。しぶしぶ部屋に戻るとその匂いがさらにきつくなっています。少し、目に沁みるような気すらします。それでも、実家も遠いのであきらめて自分の部屋でその夜は寝ることにしました。
その夜、初夏ということもあり匂いの一件もあったので、網戸で寝ていました。大学があったのが相当田舎だったのと、私の部屋が二階だったのでまあ人が入って来る心配はないだろうと油断しきって眠っていました。
夜中の1時頃でした。網戸を誰かがガタガタ言わせている音で目が覚めました。
「まずい。泥棒か。」とあわてて起き上がろうとしましたが、体が動きません。気が付けば、対して暑くもない初夏の夜なのに自分は汗ぐっしょりです。不思議と部屋の中は明るかったのを覚えています。満月の光が、網戸から部屋の中に差し込んでいたのです。だから、私は気が付いてしまいました。黒い球のようなものがごりごりと網戸をこすっています。
あまりにもはっきりしていたので、てっきり野良猫か何かかと思って慌てたのですが、体が全く動きません。目を凝らしてみると、不思議なことに、満月で陰になっているはずなのに、黒い球の中央にゆがんだ男の顔がはっきり見えました。私と目が合うと、網戸にぶつかってゴリゴリしていたその黒い球がなんとするりと網戸を通り抜けて私の部屋に入ってきました。なんか黒い糸を引いています。その糸は窓から見て右側に伸びているように見えました。その男の顔がついた黒い球はゆっくりと私の頭の上に伸びてきました。私の顔を見ながら口をぱくぱくと動かしています。私は半泣きでうなることしかできませんでした。しかし、しばらくたつとふっと私への興味を失ったように男の顔をした黒い球は、煙が風にとばされるようにすうっと網戸から抜けて出ていきました。
翌日、隣の隣からカップルが来て私に悪臭について相談してきました。
「あれ?この臭いは自分の部屋の問題じゃなかったのか。」と拍子抜けしたのを覚えています。そのカップルと一緒に不動産屋に相談に行きました。不動産屋は少し眉をひそめてその日のうちに確認してくれることを約束してくれました。
その翌々日、警官が私の部屋に来ました。
「実は、お宅の右隣の住人の方がなくなられてまして…、だいたい半年くらい前に隣の方とお話されてませんか?」隣の人は、何か事情があって半年ほど前に亡くなっていたようです。ただ、亡くなられたあと半年ほど放置されてしまっていたため、その死因も明確でないとのことでした。
その時、私は数日前に部屋に来た黒い球がなんだったのかを理解しました。
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