ある猫の悲しい最期
投稿者:朝鶴 (4)
それはもう30年も前の事です。
僕の近所には猫好きの人が住んでいました。
当時、その家では猫を10匹は飼っていたと思います。餌はきちんと与えるんですけどね。
でも、それ以外はほぼ放し飼い。だから10匹もの猫は僕の家も含め、それはそれは自由奔放に近所を走り回っていました。
そんな猫の中にトラという名前の茶トラが一匹いたんです。トラはとても人懐こくて、僕とかうちの家族にもすごくなついていました。特にトラは僕の母親の事が好きだったんですね。少し遠くに居たとしても母の姿を見ると、トラは駆けて来て母に擦り寄っていたもんです。
そんなトラだったんですけど、ある日を境にパッタリと姿を消してしまいました。飼い主の人に聞いても、行方が分からないと言います。もちろん、近所の人もトラの姿は全然、見てないと言っていました。トラ、何処に行っちゃったんだろう?まあ、そのうち帰ってくるよ。トラの話題になると父も母もそんな風に言っていました。
それからしばらくしての事です。僕の家の周囲が、異常な悪臭が漂うようになりました。悪臭だけではありません。僕の家の中も外も、尋常じゃないハエが飛び交うようになったのです。
それはあまりにも酷すぎて近所から苦情が来るほどでした。
それとほぼ同じ頃。母が毎晩うなされるようになったんです。あまりにも毎晩のようにうなされるので父が母にその理由を聞きました。
するとなんでも母の話によると、夜な夜な夢にトラが出て来ると言います。暗闇からトラが現れて寝ている母の足元からススッと自分の体の上を歩いてくると言うんですね。
そしてトラは母の顔の上にくると、その顔を爪でガリガリとひっかくそうです。
その話を聞いて父も、そして当時は幼かった僕はものすごく驚きました。母の話は夢のはずなのに、本当に母の顔には猫の爪で引っ掻かれたような酷い傷が付いていたんですから。
その話を聞いて、父は突然、母が寝ている部屋の床板をはがし始めたのです。すると、床下から出て来たのはなんとトラの死骸でした。トラの死骸は完全に腐乱していました。僕の家の周りに漂っていた悪臭はそれが原因だったんですね。それにしても母が夢を見なければトラの死骸は見つけられなかったと思います。きっとトラが自分の死に場所を大好きだった母に教えに来たんでしょう。
僕と父、そして母はトラのお墓にそっと手を合わせました。それ以来、母の夢の中にトラが現れる事はなくなりました。
恨みがないと猫はたとえ霊体になってもそんな行動には出ないよね…母コエェ