銀山温泉にて
投稿者:のの (3)
滝から流れる小川に架かる橋を渡ると、滝の水がかかりそうな場所に洞穴があった。K曰く、鬼子母神の祠らしい。
鬼子母神は安産の神様で、その禍々しい文字からは想像できないが良いものであるらしい。しかし、祠にいたのは鬼子母神ではなかった。
橋から10mほど歩くと祠に着くが、数歩歩いたところでKは止まってしまった。
「これ以上は勘弁してほしい、行く勇気があるなら行ってみて」
そう言われても私には何も感じなかったので、とりあえず洞穴の入り口まで行ってみた。
確かに洞穴の奥に祠があり、真っ暗な中では不気味である。が、何も感じなかったため引き返した。
後にKが教えてくれたが、私が洞穴の前に立った時、穴から無数の手が伸びてきて私を中に引き摺り込もうとしていたらしい。今もそれの正体はわかっていない。
左.妖怪の棲む祠
祠を引き返し、私たちは滝の左手にある石垣を登った。そこにも祠がある。
石垣を、こちらもやはり10mほど進むと祠があるが、Kは半分ほど進んだところで足を止めた。
「ここまでならいいよ。これ以上は…自己責任かな」
そんなことを言われてもと思いながら先に行ったKについていくが、一歩一歩が重い。
歩を進めるごとに前に何かがいる気配が強まってくるのだ。ここは私もいよいよまずいところに来たなと思った。
当然Kの言葉を信じざるを得なくなり、Kの横で足を止めた。そして祠を覗き込んでみる。
祠は2mほどの高さで、真ん中がくり抜かれている形だ。その空間を覆うように赤い布がぶら下がっており、中には地蔵がいる。両脇は少し空間が空いていたが、子供が入るのがやっとなぐらいだ。
その祠をまじまじと観察していると、祠の中の地蔵の右側の隙間で何かが動いたように見えた。
「ねえK、そこに何かい…えっ」
瞬間、恐怖で全身が固まるのを感じた。「何か」がこちらを覗き込んでいる。
その「何か」は黄色い目だった。顔はあったようななかったような。上手く思い出せない。
なんとか視線を外し、またそこを見ると「何か」は消えていた。
—-
何も言わずに宿に戻った。後からKに聞いてみたところ、右の祠にいたのは本当に何かわからない、左はおそらく妖怪らしい。
確かに私が今まで見てきたのは妖怪の類だ。悪意は感じなかった。そして神の類は全くわからない。
おそらく右の祠にいたのは堕ちた神で、誰も信仰しないものだから腹いせに人の魂を食らっているのだろう。
その後は普通に旅行を楽しんだ。次は遠野へ妖怪探しの旅行にでも行こうかと思う。
この話は全て実話だ。もし銀山温泉に行く機会があれば、ぜひ滝の周りを散策してほしい。
普段は何も感じない私が、銀山温泉の鬼子母神様へ手を合わせようと思い、ほこらに入ろうとした瞬間!身体中が、ぞく〜〜、として思わず足をとめました!ほんとに怖かったです!