そう言うと、女性はまるで自分の子供を見ているような優しい顔で、私を眺めていました。
「そう。よかったねえ」
女性は向かい側に座り、湯呑みを両手で包みました。
「ねえ、ぼく。お名前は?」
私は何の疑いもなく、自分の名前を答えました。
「そう。いい名前ねえ」
「おばさんは?」
そう聞いた時、肩を強く握られました。
「おい!何やってんだよ」
外で待っている友達でした。
友達は土足で上がり込んでいました。
「お前こそ何やってんだよ!靴脱げよ!」
「お前ここ廃墟だぞ」
「え、、、」
さっきまで綺麗に整頓された家は床が抜け落ちそうに腐っており、ネズミの糞があちこちに錯乱していました。
甘い匂いだったのは糞尿とカビ臭い匂いに満ちていました。
オェ、、、
口からカビをおびた泥のようなものが出ました。
さっきまで口いっぱいにバターの甘い香りが広がっていたのに生ゴミのような匂いがします。
「とにかく帰るぞ!」
友達に強く引かれ、立ち上がった時、奥から聞こえました。
「もう帰るの?」
そして女性とは別の何かの声も
「アソボ」
女の子の声でした。
けれど低く、喉の奥に泥でも詰まっているような、濁った声。
友達は私の腕を掴んだまま、玄関へ向かって引きずるように歩きました。
「振り返るな。絶対に振り返るなよ」
そう言われました。
私は何が何だかわからず、ただ友達に引っ張られるまま、腐った床を踏まないように歩きました。
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