その時です。
背後から、パタパタと小さな足音が聞こえました。
まるで裸足の子供が、こちらへ駆け寄ってくるような音でした。
友達が私の腕を握る力を強めました。
その瞬間、私は玄関の磨りガラスに映るものを見てしまいました。
私の後ろに、子供が立っていました。
背丈は私と同じくらい。
けれど、頭が異様に大きく、首が右に傾いていました。
顔は磨りガラス越しでよく見えません。
ただ、その子供が両手に何かを抱えているのだけはわかりました。
赤いゴムボールでした。
私が蹴って、庭に転がったはずのボール。
それが、どうしてあの子の手にあるのか。
足音が、また一歩近づきました。
「一緒に遊ぼうよ」
友達が叫びました。
「走れ!」
私たちは玄関を飛び出し、転がるように道路まで逃げました。
振り返ると、古い平屋は相変わらずそこにありました。
傾いた屋根。
黒ずんだ壁。
倒れた錆びた自転車。
そして、さっきまで開いていたはずの玄関は、ぴたりと閉まっていました。
私たちは息が切れるまで走り続けました。
ようやく友達の家に着いた時、私は泣きながら、あの家で起きたことを話しました。
友達は黙って聞いていましたが、話し終えると、私の顔をじっと見て言いました。
「お前、何食った?」
「クッキー……」
「どんなクッキーだよ」
「普通のクッキーだよ。おいしかったんだ」
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