これは僕が体験した話です。
僕の地元には小高い山があり、その中腹あたりには夜景が見える穴場がありました。
観光客が来ることはほとんどありませんでしたが、そこはいつしか告白やプロポーズをするための人が訪れる、ちょっとした恋愛成就スポットになっていました。
ある日、僕は友人のAとそこに行きました。
別に深い理由はなく、ただ『どんな風に夜景が見えるのか』が気になり、恋愛事に縁のない僕とAの二人で行くことにしたのです。
山ということで過酷な道のりを想像していましたが、道が整えられていたのと所々に休憩のベンチがあるため意外にもすんなり行けました。これなら女性がヒール履いてたとしてもそんなに苦では無さそうだね、などとAと話していました。
期待していた夜景は、正直そこまで感動するようなものではありませんでした。
ただ、初夏の夜ということもあり風が心地よく、単なる暇潰しに来るのもいいもんかもしれないな、と思ったことは覚えています。
とりあえず目的は果たしたので帰ろうかと思ったその時、Aが僕の肩を叩いて「静かに」と囁きました。そして僕の手を引き、木の影に隠れました。
現れたのは腕を組んだ男女でした。どう見てもカップルです。男性のほうはシンプルな白いTシャツにジーパンを履いていて、細身の長身でした。
対する女性のほうは舞踏会にでも行くかのような派手な赤紫のドレスにゴールドのハイヒールを履いていて、金に染めた髪も派手に巻いていて、なんだかチグハグなカップルだなと思いました。
「あれ、多分キャバ嬢と客だよ」
Aがそう囁きました。そう言われればそういう風にも見えますが、いくらキャバ嬢だからといって店の外であんな派手なドレスは着ないんじゃないか?とも思いました。
「もしかしたらプロポーズとかするのかも。ここで見てよう」
Aにそう言われ、息を殺して二人を見守りました。そこそこ距離があるので話し声はほとんど聞こえてきませんが、それが仲睦まじいカップルの会話ではなく、互いを罵る口論であることはなんとなく察しました。
Aも予想外の展開に「別れ話?トラブル?」などと言っていましたが、正直プロポーズよりもそちらの方が興味を唆られました。他人の別れ話を見る機会なんてありませんから。
しかし段々と様子が変わっていきました。
男性が女性の髪を掴み、殴り始めました。
これはヤバい、止めなければと思ったその時、男性がナイフのようなもので女性を突き刺したかと思うと、女性を抱き抱えたまま柵を乗り越えて飛び降りました。
柵の向こうは崖になっています。
僕とAは慌てて駆け出し崖の下を確認しようとしましたが、暗くて何も見えません。
「警察!警察呼ぼう!」
Aがそう言って警察を呼びました。
その後、警察は来てくれましたが
「ああ、またですか……」というような反応でした。
警察の話によると、以前からここでカップルが喧嘩し飛び降りたという通報が度々あるようで、その度に来ているが崖の下に遺体もなく、そもそも監視カメラにもそんな男女は映っていないとのことでした。
過去にそういった事件があったという記録もないそうです。
僕とAはなんともモヤモヤした気持ちを抱えたまま帰宅しました。
今もその山はありますが、あの夜景が見えるスポットは何故か立ち入り禁止になっています。

























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