熱い。
だが、皮膚の下で脈打つものが、鼓動なのか振動なのか分からない。
赤子はリュウの小指を掴んだ。
細い指だった。
だが離れない。
万力のような力でもない。ただ、指と指の境界が曖昧になっていく。皮膚の感覚が、工具を握るときと同じになる。
喉から声が出ない。
視界の端で、当主が静かに頷いている。
「よく回る」
何が、とは言わなかった。
それから間もなく、リュウの指は動かなくなった。硬直したのではない。動く必要がなくなっただけだ。工具を握れば、火花は正確に散る。握らなければ、ただ静かに冷えている。
町の者は言う。あのガレージは再興した、と。後継ぎは優秀で、若い整備士も育っている、と。
ただ、そこに雇われた者たちは皆、ある日を境に表情を失う。指は滑らかに動くのに、目だけが遠くを見ている。
工場の奥のピットでは、今夜も音がする。
キィィ、キィィ。
それは配線の擦れる音かもしれない。潮が引く音かもしれない。
入り口に立つと、焼けた油の匂いが肺の奥に沈む。初めて嗅ぐはずなのに、どこか懐かしい。
潮が満ちる刻限。
ガレージの扉が、わずかに開く。
中では誰かが待っている。
部品が足りないのか、それとも、もう足りているのかは分からない。
ただ、指先だけが、わずかに熱を帯びる。
――その感覚に、覚えがあるなら、もう遅い。
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