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心霊

ゴンゾウさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

人混みの異物
長編 2026/02/10 18:16 286view

第一部 相談

匿名の投稿フォームに相談が届いたのは、今年の二月のことだった。
「以前、別のライターさんに相談したんですが、途中で連絡が取れなくなって。それで、ご連絡しました」
そう書かれていた。投稿者は仮名・Aさん。三十代男性、会社員。転勤で半年前に今の街へ引っ越してきたという。
別のライターとはどういう経緯だったのか。詳しくは書かれていなかった。ただ、「現地に一度行った後、最後に来たメッセージが”あれは人じゃない”とだけ。それきりです」とだけ記されていた。

都内のカフェでAさんに会った。平日の昼下がり。窓際の席。彼は終始、テーブルの上のコーヒーカップを見つめていた。
「通勤で使ってる駅前の歩道橋があるんですけど」
彼はそこから話を始めた。
半年前の秋口。帰宅ラッシュの夕方十六時台。Aさんはいつものように歩道橋を渡っていた。人が多い。サラリーマン、学生、買い物帰りの主婦。西日が強くて影が伸びる時間帯。その人混みの中に——一人だけ、「違う」人間がいたのだという。
「何が違うかって言われると、困るんですけど」
Aさんはそこで言葉を探した。

「周りと同じように歩いてるんです。服装も普通。速さも普通。でも——なんか違う。他の全員と何かが決定的に違う」
強いて言うなら、とAさんは続けた。
「周りの人間と”層”が違うような。同じ場所にいるのに、一枚だけ別のフィルムから切り出して貼り付けたみたいな」

その人物とすれ違った瞬間、Aさんは目が合ったと感じた。合ったと思った。だが顔を覚えていない。男だったか女だったかも、分からないのだという。ただ、「見た」という事実だけが残っている。
「振り返りました。でももう人混みに紛れていなくなってた。それ自体は普通ですよね。人が多いんだから」
そして、その夜からだった。
「線香の匂いがするんです」
帰宅して、玄関で靴を脱いだ瞬間。線香の匂い。はっきりと。近隣に寺はない。不幸があったわけでもない。ただ、鼻の奥に、確かに、線香の匂いがあった。
翌朝には消えていた。
だが次の日の夕方、歩道橋を渡ると——また見つけた。同じ人かどうかは分からない。だがまた「違う」のが一人、混ざっていた。
その夜も、匂いがした。

「見つけた日の夜は必ず匂うんです。見つけなかった日は匂わない。そして——回を重ねるごとに、匂いが変わってきたんです」
最初は線香だけだった。だが最近は、その奥に別の匂いがあるのだという。
「生臭い。魚じゃない。もっと——甘い。甘くて生臭い。線香で隠してるみたいに」
Aさんはそこで言葉を切った。コーヒーカップを両手で包み込んだ。
「その匂いがした日は、誰かが隣に立ってる感覚があるんです。見えないけど、体温を感じる。右半身だけ、べったり寄りかかられてるような重さ」
——右側?
「いつも右です。右の肩から腕にかけて。それが——その”違う”人を見つけた日だけ」
迷回を試みたことはあるかと尋ねた。
「一度だけ。歩道橋を使わずに地下道で駅に入りました」
——どうでした?
「翌朝、枕から匂いがしたんです。線香じゃなくて、甘い方の。歩道橋を渡った日より——匂いが近かった」

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