「でも——まあ、偶然かなって」
彼は、コーヒーを一口飲んだ。手の震えが増していた。
「新宿まで、15分くらいです。私、スマホ見てました。でも——隣の女性、ずっと前を向いてて」
「それだけなら、まだよかったんです」
「でも——**呼吸してないんです**」
「胸が、動かない。15分間、一度も」
「私、確認したくて。チラッと横目で見て」
「そしたら——」
彼の手が、カップを握りしめた。
「その女性——**私を見てたんです**」
「顔は前向いてるのに。目だけ、こっち向いてて」
「そして——**笑ってた**」
私は、何も言えなかった。
「私、次の駅で降りました。中野坂上。本来の降車駅じゃないけど」
「ドアが開いて。逃げるように降りて」
「振り返りました。その女性——まだ座ってて。でも、顔が——**完全にこっち向いてた**」
「電車が発車しました」
「それで——次の電車で、新宿まで行きました」
「でも——」
彼の声が、ほとんど囁きになる。
「その次の日。12月19日。同じ時間。荻窪駅」
「ホームに降りたら——**また、いたんです**」
「同じ場所。同じ姿勢。同じ——**瞬きしない目**」
「私、その日は乗りませんでした。タクシーで帰りました」
「次の日も。その次の日も」
「でも——」
「1週間後。私、勇気出して。また電車乗ったんです」
「彼女、いませんでした」
「ホッとしました。もう終わったって」
「でも——**電車に乗ったら**」
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