これは、昔わたしが通ってたピアノ教室で、友達から聞いた話。
その教室に「あやの」って子がいたんだけど――これは、その子の身に起こった出来事なんだって。
彼女はピアノ教室に通っていた。
習いはじめて三年目になるけれど、ちっとも上手にならない。
家でも練習してる。指の形も注意してる。
なのに発表会のたび、他の子と比べて自分の演奏がガタガタでうまく弾けない。
「なんで……どうして上手に弾けないの……」
ある日の放課後、彼女はひとりで校舎の廊下を歩いていた。
そのとき、音楽室の前を通ったら、ドアの鍵がカチャリと半端にかかっているのに気づいた。そっと押してみると、開いた。
(あれ……カギ、壊れてる?)
誰もいない音楽室。夕方の光が窓から差し込んで、ピアノだけが静かにそこにあった。
ふらふらと引き寄せられるようにして、ピアノの前に座った。
試しに弾いてみた。
――ぽろん。
その音は、家のピアノよりもずっと深くて、あたたかくて、そして美しかった。
気がつけば、指がスラスラと鍵盤の上をすべっていた。失敗もなく、音もきれいに響いている。
(どうして……?)
でも、嬉しくて、彼女はその日から、誰にも言わずに毎日音楽室に通うようになった。
毎日、放課後になると音楽室へ向かう。カギが壊れているのを誰かが気づかないことを祈りながら。
そして今日もまた、放課後の音楽室でピアノを弾く。
その日は、いつにも増して指が軽かった。楽譜も見ずに、曲がスラスラ出てくる。自分が弾いてる気がしない。
気づくと両手が勝手に動いている。
止めようとしても止まらない。鍵盤の上を、誰かの意思で指が走っていくような感覚。
「やめて……」
指は止まらない。
「もう、やだ……!」
涙がこぼれたその瞬間。
バン!! と音を立てて、鍵盤蓋が勢いよく閉まった。
「あっ――!!」
彼女の指は、そのまま挟まれた。























※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。