今年の初め、知人からこんな話を聞いた。
「変な夢を見たんだ。たぶん、葬式をしてるんだけど、俺以外に人がいないんだ。自宅葬って言うのかな、古い屋敷の広間に祭壇が組まれてるんだけど薄暗くて、とにかく静かなんだ。綺麗で立派な祭壇だから、周りに誰もいないのが余計に不気味でさ・・・それで家中探すんだけど誰もいないんだよ。祭壇のある部屋以外は昼間なのにやたら暗くてさ。それでまた祭壇を見て気づくんだよ。この祭壇、遺影がないんだ。どう見ても葬式の祭壇なんだけど、遺影が無くて・・・それって凄く不気味なんだよ。誰のための葬式なんだ?って。それで、もっと不気味なのが、香炉っていうのかな、線香を立てるあれ、あれに、火が付いてない線香が20本ぐらい無造作にたてられてるんだよ・・・それを見てゾッとして・・・そこで目が覚めたんだけどなんか強烈に頭残ってさ・・・」
不気味な夢ではあるが、夢は夢。私は相槌を打ちながらも
「他人の夢の話ほど退屈なものはないな」
と、適当に受け流した。
それから2か月ほど建った3月の終わり、私は法事のために親族の家を訪れていた。
法事を終え、近所の寿司屋で親戚一同で食事をしているとそのうちの一人(父の従弟らしい)がこんな話を始めた。
「葬式で思い出したんだけど、この間葬式の夢見てさ、昔みたいに家で葬式してるんだけど、喪主が一人いるだけで誰もいねえんだよ、そんで遺影がないんだよ。これは不気味だったなあ・・・遺影がないだけであんなに気味悪いもんなんだな。それで、線香に火が付いて無いんだよ。それで、なんだこれはと思っていたらどこからかドーンドーンて太鼓みたいな音がして、そこで目が覚めたんだよ。」
私は聞き覚えのある話に思わずその男性の顔を見た。
向こうもそれに気づいたらしく
「なんだ、こういう話好きなの?」
と、私に近づいてきた
「好きならもっと聞かせてやろうか、この話続きがあんだよ。」
私が興味を示すと、さらに続けた
「この夢の話、俺以外にも見てるやつがいるんだよ。少し違うんだけど。俺のは喪主が一人いて、太鼓が鳴っただろ。そいつが見たのは、やっぱり遺影が無くて日の無い線香が上がってるんだけど、坊さんだけがいてお経を読んでるんだと。喪主も他の参列者もいなくて、自分と坊さんだけ。それで、その坊さんがお経を終えてこっち振り返るところで目が覚めたんだと。なんだろうなあこれ。」
ということは、この遺影の無い葬式の夢を見た人間が3人いることになる。
ネットで似たような話を探したが見当たらなかった。つまり、似た話を同時期に読んだ3人がたまたま同じような夢を見たわけではないようだった。
この話を聞いたさらに半月後のある日、私は夢を見た。
大きな屋敷の前にいた。
玄関の引き戸を開けると、所狭しと靴が並んでいた。黒い靴だ。30足はあったと思う。そこから伸びる廊下の先は、不自然に暗くてよく見えない。廊下の左手は居間だろうか、人気は無い。私は居間の戸を開け、さらに奥に進む。今の先には広い座敷があり、祭壇が組まれていた。あの靴の主達はどこにいるのだろう。人の気配が全くしない。祭壇を見ると、遺影が無い。なぜか背筋に冷たいものが走った。それでも私は引き寄せられるように祭壇の前に座る。香炉に、火の無い線香が何十本も立てられている。線香の長さはまちまちだ。途中で折られているものもある。
ふと視界の端に気配を感じた。いつの間にか喪主と思われる喪服姿の男性が正座をしてこちらをを見ていた。
「この度はご愁傷さまでした」
私が言うと、男は深々と頭を下げ
「あなた様も皆様方も・・・」
とつぶやいた。
男が顔を上げ、その顔を見たところで目が覚めた。
私がこの夢を見たのは、単にこの話を立て続けに聞いたからかもしれない。
























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