8〜10年前、正確な年は忘れたが僕が小学生だった頃。私の住んでいた所は日本海側の某県の、山に囲まれた地方都市。ある日登校して教室に入ると、男子数人で何か盛り上がっていた。
気になったので話しかけてみたら、どうやら前日、その男子達数人で自転車でどこかへ遊びに行ったらしい。そのついでに、住宅街の中にある神社の、真横の廃屋に面白半分で訪れたようだ。1人がその廃屋の前に停めてある廃車の中を覗くと、後部座席に人形が置いてあった。その後皆で自転車に乗り帰っている途中、人形を見た1人が転んでしまい、危うく横を通り過ぎるトラックに轢かれそうになった。それを男子達は「人形の呪い」だと騒いでいたのだった。
それを聞いた僕はその人形がとても気になってしまい、自分もその廃屋に行ってみることにした。しかしビビリだったので、1人では行けずに、その廃屋の近所に住んでいる友達のA君と一緒に行くことにした。
休みの日、A君の家へ行ってから2人で自転車に乗って廃屋へ向かった。A君はめったに自転車に乗らないらしかった。廃屋にはすぐ着いた。それは神社の横を通る道路を挟んで反対側にあった。その道路はそのまま神社の裏の国道に合流する小道。周囲は普通の住宅街なのに神社の裏と廃屋の周りにだけ背の高い木が数本生えていて薄暗く寒かった。その廃屋は一見普通の少し古い木造民家に見えたが、よく見ると窓ガラスがバッキバキに割れていた。その家の玄関の前にはベッコベコの廃車。グレーの軽自動車で、走行中に何かと正面衝突したようにフロントがぐっちゃぐちゃに潰れていた。なんか、生々しかった。その車の後部座席に例の人形があるらしかったが、どうしても見れなかった。学校で話を聞いたときは見てみたくてしょうがなかったのに、実際目と鼻の先に実物があるとなると、怖くて無理だった。A君に
「やっぱ怖くて見れない!無理!」
というとA君は
「じゃあ俺だけ見るよ。」
といって車の中を覗きこんだ。
僕が
「ある?」
と聞いたら
「ある。」
と言った。それが日本人形なのかフランス人形なのか、動物のぬいぐるみ系なのか僕にはわからない。あのとき聞いておけばよかった。
その後特に予定もなかったので、2人で自転車に乗ってブラブラ町を走った。僕が先頭でA君が後ろに続いた。順調にサイクリングをしていたが、まあまあ大きな川に架かる橋を渡り始めた直後。後ろから
「うわぁ!」
と叫び声が聞こえた。何事かと思い、止まって振り返った。伝わりづらいかもしれないが、その橋は、橋が架かり始めた場所から欄干の端まで少しスペースがあり、そこから普通に川に落ちることができる。A君の自転車は、前輪がその隙間に向いていて、体も横に倒れそうになっていた。今にも川に落ちそうだった。僕は慌てて駆け寄った。幸いにもA君は無事だったが、何があったのか聞いたら
「橋を渡り始めた途端、自転車のコントロールが利かなくなった。」
とのこと。そこでふとA君の自転車の前輪を見ると、驚きのあまり声が出た。なんと、タイヤに20cmほどの長さの亀裂が縦に入り、パンクしていたのだ。地面に尖った物などは落ちていないから不思議だった。一歩間違えばA君は川に落ちてしまっていたかもしれない。パンクしたタイミングも、パンクの亀裂の大きさも気味が悪かった。
「橋をちょうど渡り始めたタイミングでパンクするなんて、これはまさか、あの人形の呪い?!」
と急に怖くなったので、2人で急いで家に帰った。
その後は特に何もなかった。そのまま時が過ぎ、無事に僕もA君も同じ高校を卒業し、地元を離れた。あの廃屋と廃車は撤去されてしまい、今ではあの人形は確認できない。
成長した今考えてみれば、A君はめったに自転車に乗らないと言っていたし、メンテナンスが不十分でタイヤの空気が少なかったのではないか?だからあんなにでかい亀裂が入ってパンクしたのでは?パンクのタイミングもただの偶然だったのでは?人形を見た友達のうち、1人は’“偶然”トラックに轢かれそうになり、もう1人は“偶然”パンクして川に落ちそうになっただけかもしれない。そんな風に考えるようになった。それにしても、偶然が重なりすぎていて、やはり気味が悪い。だから、「本当に人形の呪いだった」ってことにする。
これが僕が体験した中で今のところ一番怖い話。
























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