と、上げたらきりがないが、そんな彼の言動に、最初は「なんだアイツ…」と不満気だった周囲も、次第に「Aを排除したい」という空気が出てきた。
そしてどんどんその空気が行動にと移っていった。
イベント準備のLINEグループでも、A君だけが返信されない。
話し合いのときも、彼の発言には誰も乗ってこない。
次第に、A君の存在だけが「なかったこと」にされていくようであった。
そんなある日、イベントリーダーの集まりで小さな事件が起こった。
準備室に置いてあったイベントリーダーの衣装。それが全員分切り刻まれていた。
これは大事件だということで学年集会が開かれた。
応援団長の子は泣いていた。
誰かがやったことは確かだった。
でも誰も、やっていないと言った。
そのあとボランティアとかを募ってイベントリーダーを含めた二十数人で衣装を急いで新しく作り直し、もうそれ以上誰もこの話をしなかった。
でも私は知ってる。Aの筆箱から衣装の布の切れ端が見えたことを。彼が小さい鋏を持っているということを。
でも私は、誰にも言えなかった。
事件の翌日、何もなかったようにホームルームに座っていた彼。
誰よりもまっすぐ背筋を伸ばし、誰よりも静かだった。
…まるで、「やりきった」みたいに。
それから体育祭は無事に終わった。
演目も拍手もあった。写真も撮ったし、表彰もされた。
みんな笑っていたし、記憶にはそれなりに“いい思い出”として刻まれている。
そのあとみんなすぐ受験モードに切り替わって、「あの事件、結局何だったんだろうね。」といえるようにはなった。
けれど、A君はおかしくなっていった。
たとえば、冬なのに半袖で登校してきたり、突然階段の踊り場で直立不動で突っ立ったり。
卒業式の予行で、「俺、イベントリーダーだったの覚えてる?」と初対面の1年生に真顔で訊いてるのを見たとき。
ああ、この人はやっぱり、どこか変わってる。
だけど、それが悪意なのか、何かを守るためなのかは、最後までわからなかった。
卒業アルバムに載ったA君の写真は、目線が少しズレていて、それでいて口角がこれでもかというほど笑っていた。
「あぁ….気持ち悪。」という言葉が自然に出てきてあぁ、私は彼のことが嫌いだったんだと気づいた。
同窓会しますってLINEが来て、思い出したから、とくにオチもないけど書きなぐってみた。
“ひとこわ”ってタイトルつけたけど、よく考えたらそんなに怖くないかもしれない。
ただ、あの夏の空気の重さだけは今でもはっきりと覚えてる。
たぶん、誰も悪くなかった。
けど、誰も正しくもなかった気がする。























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