……ねぇ、君は“知らない街の夢”を見たことがある?
俺はね、ずっと昔から時々見るんだよ。不思議な街の夢を。
見覚えはないのに、どこか懐かしいような。
大型のショッピングモールがあったり、通った覚えのない学校があったり……。
まるで昔住んでた街のパーツを適当に組み合わせたみたいな、そんな風景。
でも、いつも出てくる場所がひとつあるんだ。
“幽霊が出るアパート”。
2階建ての古びた建物でね、出るのは決まって2階左端の部屋。
外の道路からその部屋の窓を見上げると、決まって誰かがこっちを見てる。
女だよ。
真っ白い顔に、黒くて長い髪。
何度見ても同じ。
身じろぎ一つせず、ただ、じっとこっちを見ている。
変なんだけどさ、夢の中の俺は、それを一目で「幽霊だ」って確信してるんだよ。
根拠なんかなくても分かるんだ。「あれは生きてない」って。
けどまぁ、窓の中にいるだけでこっちに出てこないし、怖いけど放っておいてたんだ。
でもね、ある晩──あれは、今でも鮮明に覚えてる。
また夢を見たんだ。でもその夜は、いつもの街じゃなかった。
どこかの…そう、薄暗い、息苦しいほどの静けさが満ちた部屋の中。
俺は玄関に立ってた。
開けた瞬間のあの、じっとりとした空気を思い出すだけで寒気がする。
入ってすぐにキッチンがあって、目の前にはふすまとドア。
ゴミが散乱してて、見るからに人の気配のない部屋だった。
ただの廃墟の一室。それだけだ。
それなのに、ふすまの向こうから……言葉にできない、圧倒的な“恐怖”が滲み出てた。
夢の中どころか、今までの人生で一度も感じたことのない恐怖だ。
「開けたら終わりだ」と、本能が叫んでたのに、俺はなぜか手を伸ばしてた。
──ふすまを、開けてしまったんだ。
その瞬間、あの異様な恐怖はスッと消えた。不思議なくらいに。
ふすまの向こうも、同じようにゴミが散らかってて、誰もいない。
ただの、荒れた部屋。
恐らくリビング兼寝室なんだろう。かろうじて机や布団らしきものが目に入る。


























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