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不思議体験

アイスノ人さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

足音
長編 2025/05/01 13:00 6,455view

 ダイニングの照明は既に点き、暖かな光が部屋全体を包んでいた。西日が薄手のレースのカーテン越しに差し込み、その光と室内灯が調和して、心地よい空間を作り出していた。

 私はいつものように鞄を置き、ネクタイを緩めながら、キッチンへと向かった。

 Iは包丁を動かしながらも、私の方を振り向いて笑顔を見せた。彼女は人参を刻みながら、少し頬を紅潮させていた。

「今日も遅くなったね。疲れた?お風呂沸かしてあるわ」

 その優しさに、私は思わず微笑み返した。

「ありがとう」

 これが当時の日常だった。穏やかで温かい日常。息子を失った痛みを共に乗り越え、お互いを支え合う中で、二人で築き上げた大切な平穏だった。

 息子が亡くなってから一年。私たちは少しずつ、その喪失と向き合いながら、生きる道を模索していた。

 ――その平和な日々を理解するには、私たちがどんな時間を経てきたのかを知る必要がある。それは今から四年前にさかのぼる。

 息子のTはまだ四歳になったばかりの頃で、ADHDと診断され、言語障害もあって、まともな言葉を話すことができなかった。

「ま、ま」「あー、あー」と、単語の断片や意味のない音を発することはあっても、文章として伝えることはほとんどできなかった。それでも、Tの表情や仕草には豊かな感情があふれていた。

「ほら、これで遊んでみようか」

「今日はどんな絵を描いたの?」

「うん、すごいじゃないか!」

 そう声をかけながら、私はTと向き合い、彼の世界を理解しようとしていた。

 けれど、Iはそうではなかった。

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