遺影
投稿者:さまざま (1)
それから数年後、俺が高3になった頃。
母が急に「写真、撮りたいな」と呟いた。
心臓がバクバク鳴って、冷や汗が止まらなくなったことを今でも覚えている。
父も母もいつか俺を遺していなくなることは頭では理解していた。が、早すぎる。
当時母はまだ40代で心身共に健康だった。
俺の頭にある考えが過った。
もし、写真を撮りたがっても写真を撮らずにいたら、母は死なないのでは?
写真を撮らない限り母は生き続けてくれるのでは?
俺は早速父に提案したが、父から返ってきたのはとんでもない速さのビンタだった。
「母さんが撮りたがってるなら撮らせてあげなさい」
父の声が震えていた。
「写真を撮るから死ぬんじゃない。死ぬから写真を撮るんだ」
母はまるで級友に会いに行くかのような足取りで写真を撮りに行った。
一張羅のワンピースに身を包み、精一杯のオシャレをし、納得のいく写真を撮ってもらった母はそれから一週間も経たずに風邪を拗らせて亡くなった。
呆気ない最期だった。
あれから月日が流れた。
俺は妻と出会い、2人の娘もできた。
何不自由なく幸せに暮らせていると思う。
が、突然、妻と娘2人が「写真を撮りたい」と言い出した。
「写真…?スマホで撮ればいいじゃん」
内心焦りつつそう返事をすると
「そういうのじゃなくて、ちゃんとしたスタジオで写真が撮りたいの」
と満面の笑みで言われた。
娘2人はもう何の服を着ていくかでキャッキャとはしゃいでいる。
俺は妻と娘を止めることもできず、ぼうっとその光景を見つめていた。
何故なら俺もまた、写真を撮りたい衝動に駆られていたからだ。
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