奇妙な訪問者
投稿者:デヴ (1)
「すみませーん、この辺を回っている者なんですが」
ある日、家のチャイムが鳴らされた。
玄関前に立っているのは見知らぬ大人。
磨りガラスが嵌め込まれたドアなのでシルエットでしかわからないが、おそらく白っぽい服を着た女性だろう。
当時中学生だった俺はその見知らぬ大人を警戒し、居留守を決めた。
しかし再度チャイムが鳴らされる。
「〇〇くん?いますよねー?」
それは俺の名前だった。
俺に用事があるのか?俺が覚えていないだけでもしかして知ってる人……?
色々な考えが頭を巡り、結果俺は玄関の扉を開けてしまった。
そこに立っていたのは白いコートを着た女だった。もちろん知っている人ではない。
異様だったのが、その女の髪の長さだ。
地面に付くほどの長さの髪を、結びもせずにだらんと垂らしている。唇には真っ赤な口紅が引かれ、目には濃い紫のアイシャドウ。
そしてとんでもなくキツい体臭。この匂いだけで倒れそうになった。
「私、この辺を回っておりまして」
そう言いながら女は俺に変なチラシを手渡してきた。
それは行方不明者を探すチラシなのだが、そこに写る女性の顔が今目の前にいる女と瓜二つというか、むしろ同一人物だった。
俺が戸惑っていると、女は
「この辺を回っているので」
と言い、作り物みたいな笑顔を向け
「ギャハハ、この辺を、この辺をね!」
と、何がおかしいのかチンパンジーのように手をバンバン叩き、歯茎を剥き出しにして唾を飛ばしながら笑い始めた。
俺は怖くなって玄関のドアを閉めた。
女はその後も
「この辺をね、この辺をね!ぐふふふふ」
と言いながら磨りガラスの向こうで身を捩って笑っていたが、しばらくするといなくなった。
女に渡されたチラシはほぼ手書きで、白黒写真のコピーが貼り付けられていた。
そのチラシによると、平成元年に行方不明になった女性を探しているのだという。
しかしそこには女性の名前も書いていなければ連絡先も書いていない。
貼り付けられた写真も顔のアップで体型がよくわからない。
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