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不思議体験

豊さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

古民家カフェ
短編 2025/01/18 10:18 1,012view
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7年ほど前、近所に突然古民家カフェがオープンした。
自家製プリンとスフレパンケーキを売りにしたそのカフェは、県外からやってきた若い夫婦がふたりで経営しているようだった。
男のくせに可愛いスイーツが好きな俺はそのカフェが猛烈に気になっていたが、いつ店の前を通っても客が入っている様子がない。
客層がわからない店にひとりで行く勇気は無かったので、当時付き合っていた彼女を誘って行ってみることにした。

カフェに入るや否や、明るい笑顔の女性店員が「いらっしゃいませー!」と出迎えてくれた。
店内は古いものの清潔感があり、使われているテーブルなんかも雰囲気がある。
俺と彼女はせっかくなので、中庭と店内を眺められる座敷席に座った。
「こちら、お冷とおしぼりです」
女性店員がテーブルに二人分のコップを置いた。
レトロなオレンジの花柄が入った昭和感満載のコップで、思わずテンションが上がったのを覚えている。

ひとつ、不思議なことがあった。

俺はこの店に客が入っていくのを一度も見たことがない。いつもひっそりしていて、本当にオープンしているのか?と疑っていたほどだ。しかし店内は意外と客が入っていて賑わっていた。
もしやもうひとつ入り口があるのか?と思ったが、そういうわけではなさそうだ。
俺が見た時にたまたま客が入っていなかっただけと言ってしまえばそれまでだが……。
それと、訪れたのは暑さが和らいできた9月末ごろだったが、店内がものすごく寒かった。冷房の寒さとは違う、なんとも言えない冷え方をしていた。

とりあえず、来たからには楽しもうということで、俺は自家製プリン、彼女はプレーンのスフレパンケーキを注文した。
先にセットドリンクの紅茶が運ばれてきたが、この紅茶がとんでもなく美味い。
温かい紅茶を飲んだら店内の寒さもあまり気にならなくなった。
そしてプリンとパンケーキ登場。
それぞれ彼女とシェアして食べたが、どちらもとても美味しかった。店員の女性曰く、卵にとてもこだわっているらしい。

しかし、店内を見回して気がついた。
他の客は皆、スイーツはおろか飲み物すら注文していない。最初に運ばれてくるお冷を啜りながら会話したり、ぼーっと外を眺めたり、何が面白いのか手を叩いて爆笑したりしている。

もう食べ終わった後なのか?いやでも、長居するなら追加注文するのがマナーだろう。
なんてモヤモヤしていると、彼女が青ざめた顔で俺を呼んだ。
「ね、帰ろう。ここ変だよ」
彼女は今にも泣き出しそうな顔で震えている。
「え、でもまだパンケーキ残ってるよ?」
そう聞くと
「だって、周りのお客さん……」
彼女はついに泣き出した。
なんなんだと他の客側に目を向けて、思わず硬直した。
視界に入る全てのテーブルの客が、俺と彼女のほうをガン見していた。
それも、眼球が飛び出すんじゃないかと思うほど目をかっ開いている。
中には俺達を指差して何かを言っている客もいた。
「!?な、なんなんだよ……!!」

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