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心霊

兎女王さんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

タタさんからの電話
長編 2025/01/18 00:40 1,383view
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私が短期間だけ働いていたコールセンターの話です。

新卒での就活に失敗し、諦めモードで自堕落な生活を送っていた私に、母がとある求人を見せてきました。
非正規だったのですが、かなりの高時給のコールセンターの求人です。
内容は『会員のお客様に確認の電話をするだけの簡単なお仕事』と書かれており、今でこそ珍しくないですが、当時は非常に珍しい履歴書不要の求人でした。
私はすぐに書かれていた電話番号に電話し、翌日に面接の約束を取り付けました。

面接は志望動機などを聞かれるような堅苦しいものではなく、利用する路線や通勤時間の確認、週にどれくらいの勤務を希望するか、土日は出られるか等の確認だけでした。
その場で採用が決定し、初日の持ち物などの確認が終わると、入社に関する書類を書かされました。
書類はいくつかあったのですが、その中にこんなものがありました。

『タタさんから連絡が来た場合、即時にアルバイトを辞めるものとする』

これに関して、この時に何か聞いておけばよかったのですが、私はただバイトが決まったことに浮かれて後で聞けばいいやと思ってしまいました。
そしてそのまま『タタさん』という謎の名前については忘れてしまったのです。

勤務初日、私は指定されたビルに向かいました。
そのビルは繁華街から少し離れた路地にある小さなビルで、コールセンターが入っているのは3階でした。

エレベーターを降りるとすぐドアがあり、ノックすると30代くらいの主婦っぽい女性が出てきました。
「どうぞどうぞ」と言われて中に入ると、中は思っていたよりも狭く、向き合うように置かれた4つの机のうち3つが既に使われていました。
正直、コールセンターと言うのでもっとたくさん机が並んでいるイメージでしたが、小さな会議室レベルの広さで机も4つしかないので拍子抜けしました。

「Kさん(私)はこの空いてる机を使ってね。Kさん専用だから、引き出しにお菓子とかジュースとか入れといてもいいよ」
女性がそう言いました。
この女性(仮にMさんとします)と、Mさんの向かいに座っている若い男性のYさんは事務の方だそうで、私の向かいに座っているHさんという若い女性が私と同じコールの仕事だと聞かされました。
面接を担当していた男性はいませんでしたが、その人は普段別のオフィスで働いているそうです。

仕事内容は本当に楽でした。
以前、会社のサービスを利用したことのある顧客リストに電話をかけ、近況を尋ねるだけです。
そこで何か要望があればお客様対応専門のチームに繋ぐので特別なトークの知識も必要なく、淡々と同じ事を繰り返し聞くだけだったので気が楽でした。
ちなみにそのお客様対応専門チームのオフィスは同じビルの別の階にあったそうですが、私は一度も足を踏み入れたことがないのでどんな人が働いているのかも見たことがありませんでした。

ある日、いつものようにリストに電話をかけていると、突然電話が鳴りました。
私の担当していた仕事は発信専門だったので、こちらにお客様から電話がかかってくることはまずありません。

また、他の社員からの電話はMさんかYさんが持っている社用携帯にかかってくるので、社員からの電話なはずもありません。
「あ、ちょっと」
Mさんが何かを言おうとする前に、Hさんが電話に出てしまいました。
「あ、あの、お電話ありがとうございます。〇〇(会社名)のHでございま……」
Hさんはそこまで言うと突然目を見開きガタガタと震え、
「タタさん?え?や、違、がっ」
みたいなことを叫び、電話の受話器をガチャン!と雑に置きました。
私は何が起こったのかわかりませんでしたが、MさんとYさんは何かを察したようで、パニックになっているHさんに駆け寄るとお互いに何かを指示しながら部屋から出て行きました。
そして、しばらくするとYさんだけが戻ってきました。
「あ、あの……Hさんは」
私がそう尋ねると、Yさんは
「すみません、後日説明しますので、本日はもう終わりにしていただいていいですか?ちょっとイレギュラーなことが起こりまして、明日も多分業務はできないので来週の月曜にまた出勤してください」
早口でそう言うと、Hさんの荷物をまとめて
「僕はまた外に行かなきゃならないんですけど、別のチームの人に説明してあるんで、ここの鍵かけないで帰っちゃって大丈夫です。あとお給料はちゃんとフルタイム分支給しますので、そこはご安心ください」
そう言って、バタバタと出て行きました。

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