廃ビルでの出来事
投稿者:吉記 (1)
一階に戻ると、事務所の隣にもうひとつ部屋があることに気がついた。
テーブルと灰皿、そしてソファが置かれたその部屋は、おそらく客の待合室だったのだろう。
壁にはデカデカと『注意事項』と書かれた紙が貼られている。全体的に傷みが少なく、この部屋だけ現役で使えそうな雰囲気だった。
「あ、ねえ!これじゃね?」
Bが何かを懐中電灯で照らした。
下着姿や、裸にタオルを巻いただけの女の写真がズラリと並んでいる。これがAのお兄さんの友達が見たという写真なのだろう。
「なんだ、素っ裸じゃねーのかよ」
Bが文句を言って部屋を出る。
Aは無言のままBについていく。
「よし、次は2階だな」
Bはそう言うと2階へ続く螺旋階段を登り始めた。
Aは一瞬躊躇っていたが、俺がBに続いて登り始めるとAも恐る恐るついてきた。
2階は廊下といくつかの部屋になっており、同じ形のドアがずらっと並んでいた。
Bが手前のドアからひとつずつドアノブを捻っていったが、当然開かない。
しかし廊下の突き当たりの部屋のドアノブを回した時、カチャリと音がしてドアが開いた。
「え、開いた!マジかよ!」
「えっすげえ!中見ようぜ」
俺とBは懐中電灯で部屋の中を照らした。
俺とBは言葉を失った。
狭い部屋の中には小さなバスタブとベッドらしきものがあるのだが、そのバスタブに人が入っていた。
長い髪で顔が見えないが、おそらく女だろう。
その女が、甲高い声で言った。
「まだだよぉ、まだできてないんだよぉ」
その後俺達はダッシュで階段を降り、事務所に戻ると外に繋がるドアから慌てて外に出た。
そして3人とも無言のまま、走って桃ビルから離れた。
途中何度か転んで膝を擦りむいたが、なるべく早く桃ビルから離れたかったので気にせず走り続けた。
「はあ、はあ、あれ何!?」
人の多い公園に辿り着き、やっとBが口を開けた。
「何って……生きた人間ではないよな。幽霊……?」
俺がそう返すと、Bは首を横にぶんぶん振り
「いや……幽霊なんているわけないだろ!」
と半泣きで叫んだ。
その様子を黙って見ていたAが、ぽつりと「ごめん」と呟いた。
面白いほど怖かった