第二電算センター
投稿者:ねこきち (21)
今から十数年前、私がそこに配属された時点で「電算センター」という言葉は大分古臭いものになっていた。
既にシステム運用のアウトソーシングは企業の規模に関わらず進んでいて、最新の耐震構造や無停電電源装置が用意された「データセンター」が全国各地にあった。
新人社会人だった頃、私は先輩社員に連れられて様々なデータセンターを見学した。郊外の山の中に突然現れる巨大な白い施設や渋谷区の洒落た一等地の地下に隠された施設、どれも秘密基地の様な趣きの外観と80年代のSF映画に出てきそうな「近未来的な」内観だった。
それらに比べると電算センターはレガシーという言葉がぴったりだった。
少なくともあの第二電算センターはそうだった。
1969年に稼働を開始した第二電算センターは私が入社した時点で築40年という代物だった。国内でもかなり早い時期に建てられた情報処理専門施設である。
かつてはダイレクトメールや各種の帳票を印刷する大型印刷機や、当時最新型のメインフレームが多数設置され、それらを運用する人々(社員だけでなくパートや運送業者、機器の保守をするメーカーの技術者も含めだ)が24時間常駐し、最盛期は200人もの人々がここで働いていたという。
だがご存知のようにダウンサイジングやアウトソーシング、クラウド化といった業界の潮流に加え、何より老朽化という自分自身の要因によって第二電算センターは徐々に役割を奪われていった。
都心にある本社から電車とバスを乗り継ぎ2時間以上もかけて到着したその建物は、その大きさと裏腹にろくな手入れもされていないように見えた。老いた守衛のいる正門の周りは雑草が伸び放題だったし、建物自体も長年の風雨に晒されたためか一部が欠けたままになっていた。
ITの最先端を標榜する自社にはとても似つかわしくない、オールド・ファッション、忘れ去られた場所、初めてそこを訪れた私はそんな第一印象を受けた。
入社二年目の営業員だった私はある日上司から配置転換を命じられたのだった。来週から第二電算センターで保守業務に就いてほしいと。
今君たちが思ったことと同じことを私も思った。これは左遷だ。
コンピュータのこともプログラミングもオペレーションも知らない私に、電算センターで何ができるというのか?どこかの顧客を激怒させるようなことをしたか?役員の心証を悪くするような粗相があったか?様々な考えが脳内を駆け巡ったが、断る理由もなく私は受け入れるしかなかった。
センター内は死んだように静まり返っていた。玄関で私を迎えてくれたセンター長に館内の案内される途中、昨今はセンター内に3人以上の人間がいることすら稀なのだと教えられた。
一階はいくつかの広い倉庫や会議室があったが、部屋にはほとんど物はなく空のラックやロッカーが無造作に置かれていた。
地下には二つの大きな部屋があった。この二つの部屋の間の壁は取り払われて中で繋がっており、床に貼られた養生テープで隔てられているだけなので、実際には地下は一つの大きな空間とトイレ、廊下、階段のみで構成されていた。
二つの部屋にはそれぞれ「第一専用ルーム」と「第二専用ルーム」というルームプレートが入口についているが、第二専用ルームのドアは閉め切りなっており入室ができるのは第一専用ルーム側のドアからだけだった。
センター長と共に第一専用ルームに入ると、中には殺風景が広がっていた。薄暗い部屋の中央にデスクとパイプ椅子が置かれ、初老の男性が座っていた。
この第一専用ルームがその日から私の職場となり、初老の男性から業務の引き継ぎを行った。
業務内容は実に単純だ。
業務は二交代制、私は朝9時または19時に第一専用ルームに入室し、それまで勤務していた社員から日誌を受け取る。
室内のパイプ椅子に座り、第二専用ルームの方を「監視」する。
数本の蛍光灯が光る第一専用ルームに対して第二専用ルーム側は照明の類が無く真っ暗だが、丁度パイプ椅子に座った正面に二つの緑色灯が左右に並んで灯っているのが見える。
この緑色灯の片方、ないしは両方が黄色く光ったら、15分以内に一階にある専用電話機から「保安センター」へ電話連絡をする。
業務開始から12時間後、日誌に自分の勤務中に起きたことを記したら、入室してきた交代要員に日誌を渡して帰宅する。
たったのこれだけだ。
ただし、他にも細かい禁止事項はあった。
一つ、携帯電話など記録可能な電子機器は一階のロッカーに入れ地下には持ち込まないこと。
一つ、地下の照明スイッチには絶対に触らないこと。
一つ、養生テープを越えて第二専用ルームには決して入らないこと。
応援してます。
ある時から何かを閉じ込めて監視するための施設になっていたんだろうか
その何かが無くなったから施設を解体することになったのか、解体したから何かは外に出てしまったのか…
不思議で不気味な話
怖いです。
東雲しのさんからです!おもろい
機械設備、備品は200名の従業員がいなくなったときに撤去されていた。現在は愚鈍な見ざる言わざるみたいな社員を送り込んでいて架空の仕事を与えていた。ランプの監視を警備会社等外部の会社の遠隔システムにしないのは理由があった。会社の目的は脱税及び裏金機密費の捻出だ。新人は好奇心から規則を破り携帯を持ち込み秘密を探ったがバレて制裁された、と推理。オカルト的な結界がどうのとか呪物とかいう話もありだが、答え合わせしないところが吉。