飛べない鳥
投稿者:高崎 十八番 (6)
野鳥の会に在籍しているМさんから聞いた話。
その日、Мさんは徳島県N市にある山林へ、野鳥を撮影しに向かっていた。山道を四駆車で走行していくと、頂上近くにある廃ホテルを発見。ここは稲川淳二が訪れるほどに有名な心霊スポットだったはず、と微かな記憶を頼りにМさんは思い出し、元々駐車場として利用されていた跡地に車を停め、その廃ホテルの外観を撮影する事に決めた。曰く付きの心霊スポットという事もあってか、目的よりも好奇心のほうが勝ったМさんは、衝動的に撮影し始めた。
しかし写真に何か奇妙なものが写るという事は起きず、Мさんは心霊写真を撮影する事を断念。それから辺りを見渡しながら黄昏れていると、その場から瀬戸内海が一望出来るほどに海が近い事が分かった。
その海を挟んだ先には淡路島も見える。
気を取り直してМさんは、野鳥撮影をする事に決めた。人道から外れた獣道を突き進み、山の奥地へと入っていくМさん。望遠レンズを装着した一眼レフカメラをライフル銃のようにして構え、野鳥達を次々に撮影していく。
すると岸壁の上に佇む大きな黒い鳥らしきものを目撃した。
Мさんの場所からは遠過ぎて、その黒い鳥の詳しい鳥種までは分からない。Мさんは、一眼レフ越しに黒い鳥を捉え始め、ズームを試みた。その黒い鳥の正体が何か見え隠れし始めた瞬間、岸壁からその鳥は羽ばたき上空に舞い始めた。咄嗟の鳥の行動により、Мさんは連写機能を使い反射的にシャッターを切った。
しかしその黒い鳥は、空を滑空せずにみるみると降下していくばかりである。Мさんのシャッター音が鳴り止む頃には、その黒い鳥は海中へと勢いよく潜水してしまい、そこから浮上する事はなかった。
「海鵜が魚影目掛けて狩りをしていたのだろう」Мさんはそう思い、撮影した写真を確認する事にした。
連写撮影の為、全部で30枚程が保存されている。最初の1枚は黒い怪鳥らしきものが岸壁から飛び立つ瞬間が写し出されていた。そこから徐々に枚数を重ねていくと、8枚目程で鳥だとは到底呼べないものがそこに写っているのが分かった。更に見進めていくと14枚目で、それが鳥ではなく人間である事に確信を覚える。19枚目には、その人間が此方の存在に気付き始め、23枚目ではМさんを鬼の形相で睨みつけた表情へと変貌し、岸壁の横を重力に従って降下していく姿が写真に写し出されていたそうだ。
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