家具の買い取り
投稿者:嵐山ノキ (3)
またRさんの声。さらにTさんは見た。衣装ケースに貼られたシールのうち、一気に3枚ほどが上半分から剥がれていくのである。先ほど最初に剥がれ始めた1枚はすでに全て剥がれて床に落ちていた。
「申し訳ありません、電話機と、そちらの米びつも引き取りの対象外でして」
「なんで? なんで?」
心なしか、最初は穏やかそうに見えたRさんの顔が強張っている。
Rさんが疑問を投げかけるたびに衣装ケースのシールが剥がれ落ちていく。シールが剥がれているだけなので音こそしないが、Rさんの怒りと連動するようなその動きにTさんは戦慄していた。
「で、ですが食器棚の中のこちらの綺麗な食器。こちらは買い取りいたします」
「えっ」
シールの動きが止まる。
「査定額はこちらになります」
そう言ってTさんは金額記載した書類をRさんに渡す。Rさんがそれを受け取ってまじまじと見ている間、Tさんは衣装ケースに注目した。
なんと上半分が剥がれていたはずのシールが、ひとりでにケースに貼られていく。重力を無視したようなその動きは全く理解不能である。
「なるほど、じゃあこの食器分は買い取ってください」
Rさんの機嫌が直ったらしい。すでに衣装ケースのシールは最初の状態に戻ったようだった。剥がれて床に落ちた1枚まで、今はケースに再び貼られていた。どうしてそうなったかはわからない。
不気味な思いを抱きながらTさんはその家を後にした。
「世の中にはいろいろな人がいる」
そんな当然のことを改めて感じた日だったという。
怖くはなかったですが、不思議な話しでおもしろかったです。
シールに生命が宿っている??