この前に雨が降ったのはいつだっただろうかと軽く考えながらも、Eさんは持ち上げた。胴体らしき部分はグニョッという手触りがする。雨風に晒されて中身が腐ってきたのかもしれない。
「でも、さっき何が光ったんだろう」
おそらく月明かりが反射したのだろう。しかし人形のどこにそのように光るものがあるだろうか。
Eさんは急に怖い話を思い出した。拾った人形を部屋に持ち帰ったところ、夜中に人形の目が光って襲ってくるという話だった。少しゾッとする。
「うう、もう、他のを探してる余裕ないよ」
光ったもののことを考えてもわからない。森に入ってかなり時間が経過しているはずだ。
Eさんはそれを抱えて、来た道を戻り始めた。
行きに比べると帰りは早く感じる。わずかに見えるお寺周辺のライトだけを頼りに、ひたすら前だけを見て進んだ。
ついに森を抜けた。友人たちはEさんの姿を認めて幾分かホッとしたような空気になった。
「ねえ、戻ったよ」
Eさんは少し口元を緩めて話しかける。息が上がっているが無事に達成したという安堵感が勝っていた。
「ほら、ちゃんと森の中で拾ってきたんだよ。日本人形」
見返してやったような気持ちになったEさんだったが、友人たち3人の顔に浮かんでいたのは怯えの感情であった。
「Eちゃん、それ、そ、そんなの拾ってきたの」
1人が震えた声で言う。
Eさんはようやく自分が持ち帰ったものをライトの明かりでまじまじと見た。
「ひゃあああっ!」
拾ってきたものは確かに日本人形ではあった。しかし尋常な状態ではない。
着物から髪の毛の部分から、全身がどす黒く染まっている。まるで大量に出血した後のような濃い血の色だった。
着物の上から腹部が切り裂かれ、臓物に見立てた肉らしきものが中に入れられていた。それが飛び出しかけ、腐った悪臭を放っている。
そしてその場の全員が正視できなかったのが、目の部分である。
両目に五寸釘が深々と打ち込まれていた。
「うえええっ」
1人がその場で吐いてしまった。Eさんも気を失いかける。
現実感がなくなりつつある中でEさんは思い当たった。あのとき森の中で人形が光ったように見えたのは、五寸釘が月明かりを反射していたのだと。
「あんたの、あんたのせいだからね! こんなの、ひどい」
数秒の間意識がなかったEさんだが、友人からの罵倒で我に返った。
血まみれの人形を地面に置き、Eさんは走り出した。もう事態の収拾は大人に任せるしかないと思ったのである。
「開けて、ねえ、お願い」
Eさんは寺の裏側の家の方に回り、インターホンを連打した。
出てきた親戚に肝試しのことも話さなければならず大目玉を食らったが、洗面所で血などを洗い流しているうちにようやく気分が落ち着いてきた。
























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