犬を飼わなくなった理由
投稿者:あ (2)
俺は昔、犬を飼っていた。名前はメグ、白と黒の毛が混じった雑種のメス。少しおてんばな奴だった。
当時ブラック企業に勤めていた俺は帰宅時間が日をまたぐこともあった。
それでもメグは俺が帰宅するまで必ず起きていて、俺が帰ると喜んで出迎えてくれた。そして俺は、歓迎してくれるメグにおやつをあげてから一緒に寝る。それが俺たちのルーティンだった。
5年前、メグは死んだ。
今でも覚えているのが、メグが死んだ直後に涙はでなかったということ。軽くなったメグを抱えて、散歩したっけ。メグの顔は穏やかで、本当に寝てるみたいだった。数時間もすればいつもみたいに、起きてとびかかってくるんじゃないかってくらい。それからメグを火葬して、供養してもらった。
数日後に会社から帰って来た時に、俺は玄関でメグはもういないことを実感して初めて泣いた。
24歳になるというのに、わぁわぁ声を上げて。不審に思った近所の人が通報したらしく、警察が俺の家に来た時は情けなかった。
あの時の警察官には、深夜に仕事を増やしてしまって申し訳なかったと思う。
それからというもの、玄関に入ると自然と涙がでるようになっていた俺は
会社から帰っては玄関で泣くことがルーティンになっていた。
そんな日が続いて3日、メグのおやつ袋から音がすることに気が付く。
まぁよくある話、感動系のストーリーで死んだペットが飼い主に会いに来る展開ってあるじゃないか。
袋から音がするだけなのに、「メグは俺に会いに来たんだ!」って当時の俺は本気で思っていた。
次の日の朝、おやつ袋には獣に食い荒らされたような形跡が残っていて、俺は確信する。
「やっぱりメグは俺に会いに来たんだ!」
今思い出すと、しょうもないような恥ずかしいような。だけど、当時の俺はそんな思考に達してしまうくらいにはメグに会いたかったんだ。
次の日もメグは俺のもとにやってきた。朝見たらメグの好きだったおもちゃがズタズタになっていたから、少し違和感を覚えたけど。
よく偉い人とかが「人は信じたいものを信じる」っていうだろう。あれって本当なんだよ。
その日から俺はメグの為におやつを玄関に用意するようになり、それを見た母親に心配されたのを覚えている。
次の日も次の日も俺はおやつを用意した。おやつは毎日、次の朝には空袋になっていた。
けどまぁ。やっぱり人間って欲がでてくるもんで、最初はメグの存在を感じるだけで満足していたのに
日に日にメグを一目見たいという気持ちが俺の中で昂っていった。
だから俺は、帰宅していつものようにおやつを玄関に置いた後寝室に行って狸寝入りをすることにした。
一目だけでも、メグを見れたら俺はそれで満足だった。
メグが来るまで、俺はソシャゲとまとめサイトを見ながら布団にこもって時間を潰した。
夜中の3時くらいだったか、「ざかっ、ざざっ、がさ。」といった具合の音が玄関から聞こえた。誰かが人為的にモノを触っているような音だった。最初は風の音かと思ったけど、扉と窓は全て閉めてある。
「メグだ!」
俺は音の主がメグだと確信したと同時に、音を殺して玄関の方に歩いた。
メグに会ったら何をしようか。何も言わず立ち去るのが良いだろうか。いや、一声かけるべきか。きっとメグも俺に会いたがっているに違いない。
そんな自分に都合のいい御託を頭の中で並べながら、小学生の頃のクリスマスの朝みたいな気持ちで一歩一歩進んだ。
メグの死因も気になり始めた…
尻尾だけはメグだったってこと??なんや?